神戸に戻った多良崎は、恩師の病院再建に注力した。全壊した病院を建て直すため、再建融資を工面すべく、銀行をまわる毎日が続いた。


その間、神戸HCは有田1人に任せる形になったが、彼は快く引き受けてくれた。


「おまえがいてもいなくても一緒だからな。気にするな。」



「・・・喜んでいいのか・・・? (-。-;)」




三宮のセンター街も、すっかり様変わりしていた。



震災前の光景が思い出せずに、どこか異国にでも来たかのように多良崎は彷徨った。



「これがあの三宮か・・・。あの活気ある街はどこにいったんだ。」



「あ!多良崎さん!」



振り返ると、そこには見覚えのある青年が立っていた。



「土居くん?!久しぶり!無事だったんだね!」



「ご無沙汰してます。そろそろ動物病院の方にも顔を出そうと思っていたところなんです。」


「いやいや、また会えて嬉しいよ。」



「先生のことは聞きました。なんといっていいか・・・」




彼は淡路島にすむ学生で、多良崎たちとは競馬場で知り合った馬仲間であった。


「淡路島が震源地に一番近かったもんな。。君の家は大丈夫だったか?」



「・・・。実は助かったのは僕だけで・・・。」






「ええ?! (°Д°;≡°Д°;)」





「オヤジとオフクロ、それに妹たちも・・・・。僕はちょうどバイトで家をあけてたんです。」



「す、すまん・・・。」


「いえ・・・、これも運命ですから。」



「そうか・・・。」



「これからどうするんだ?」



「来年、大学を卒業するんで、そろそろ就職活動なんですけどね。」



「もうそんな時期か・・・」



「じつは僕、保父さんになるのが夢なんです。」



「ほお!いまどき珍しいね。」



「子供が大好きだし、僕が両親にしてもらったように、僕も多くの子供達に愛情を注いでいきたいんです!」



「そうか!ご両親たちも、きっと天国で応援してくれてると思うよ。」



「はい!」



志半ばで逝ったもの。そして、その影で生き残った数多くのものたち。


それぞれの人を想い、それぞれの痛みを抱えながら、それでも今日を生きていかなくてはならない。


笑ってすごせる日がくると信じて。




多良崎は空を見上げつぶやいた。


「先生、今日もおれは生きてるよ・・・」




(つづく)




赤を基調とした店内の置くには、6つのテーブルが並んでおり、数人の温泉客がホステス相手に楽しそうに談笑している。





「マスター、いい店だね (°∀°)」


「ありがとうございます。お二人はどちらから?」


「神戸だよ」


「それはそれは・・・こんどの地震は大変でしたね (´д`lll) 」


「まあ、起こったことを言ってもはじまらないからね。」


「そうそう。それにこんなときだからこそ、羽を伸ばさないと、

 なあ多良! (o^-')b 」


「ああ。最初は不謹慎だと思ったけど、おかげで心の洗濯ができたよ。恩にきるぜ有田」


「お、そういってくれると嬉しいね!」


「さあさあ、お二方とも、どうぞごゆっくり、おくつろぎください。」

「アテンションプリーズ!アテンションプリーズ!」


奥のテーブル席から男の大声が聞こえた。


「すいません、少し酔われてるお客様がいらっしゃいまして・・・」


「酒場に酔っ払いはつきものだろ?別に、気にしちゃいないよ。」


「ヘイ!ユーの オ・ナ・マ・エ・は?!」


「私の名前はミドリ! (^O^)/」


「おー、ワンダフルネームですね!

 じゃあ、こっちのお姉さんは? o(゜∇゜*o)(o*゜∇゜)o」


「私はアンナでーす! (^O^)/」


「ウッヒョー!サイコー! ヘ(゚∀゚*)ノ」


「おい、有田みてみろよ。さっきの外人さんだぜ」


「チッ・・・あのにやけた顔みてらんねえな・・・ (-x-;)」

「チラッ ( ̄ρ ̄ )」


(おい、有田!あの外人こっちを見たぞ!)


(バカ!おまえがジロジロ見るからだ!)


ユラっと立ち上がった男は、千鳥足で有田たちの座るカウンターへと近づいた。


「マスター富士川!お席にお戻りください!」

「チッ、相手してやるか。どうせまたバカの一つ覚えで  

                ”アテンションプリ~ズ”  だぜ。」

「お、賭けるか?有田。 」


「マスターベーションプリーズ!!! ヾ(* ゚▽ ゚)ノ


「い、今のはレッドだろ?!一発退場だよな?!多良崎! (((゜д゜;)))」


「いや・・・かぎりなくレッドに近いイエローだ・・・」


「いいのか?!女性読者もいるのに・・・し、知らんゾ・・・」


「か、賭けはオレの勝ちだ・・・・。」

「おにいさんたち、アロハー!ワタシのなまえはジョージ・富士川デス!」


「よ、よう・・・」

「オーストラリアからやってきましたー、35年前に!ププ!」


「・・・・。」


「オドロクナヨー!ワタシは馬の天才調教師でありマース! ( ̄∩ ̄」


「調教師?!」

「【て・ん・さ・い】調教師ダヨ! オマエ、耳ワルいネ! (▼ヘ▼;)」

「知ってるか?有田」


「い、いや・・・聞いたことないな。 ┐( ̄ヘ ̄)┌ 」

「ガッデム!名馬をいっぱい育ててマース! (▼Д▼;)」


「ほ、ほんとうか?」


「セラフィム、フグタイテン、それからバックレオヤジもイマース! ヽ(゜▽、゜)」

「聞いたことない馬ばかりだゾ・・・ 」


「行こうゼ、ただの酔っ払いのようだ。。」

「ジョージ、ショック!!!  ( ̄□ ̄;)!!」

この奇妙な出会いが、運命の出会いであったことを彼らが知るのは、まだ先の話である。


翌朝、芦屋の有田家に戻った二人を、くるみがにらみつけていた。


「パパ!なんでくるみちゃんをおいていったの?! 。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。」


「ご、ごめん!パパたちはお仕事に行ってたんだよ、くるみ」


「ウソ!あっかんべー!の、べろべろべー、だ! ヽ(#`ε´#)ノ」


「ごめんごめん!」


「いっしょにおフロに入ってあげないもんねー! ヾ(。`Д´。)ノ」


「ええええええええ!(((゜д゜;)))」

(つづく)





城崎は、兵庫県北部に位置する温泉情緒漂う町で、志賀直哉が療養で立ち寄った際に書いた「城之崎にて」の舞台としても有名である。





カニみその軍艦巻をほおばりながら、有田は笑った。


「多良よ、城崎まで来て、スキヤキを食うなんて気は確かか?」


「・・・牛はオレを裏切らない。」


「カニはお前を裏切ったのか?わけの分からないこといってないで、こっちのカニスキもくってみろ。」


「うわ、やめろ!カニなんて大嫌いだーーー! (≧д≦)」









しんしんとつもる雪を眺めながら、二人は所有馬のローテーションについて語り合った。やがて、すっかりデキあがった二人は、少し酔いをさまそうと、身を切るような寒風ふく街へと繰り出した。

「くー、おいみろよ。やっぱり女は浴衣だね! (°∀°)」


「お前も好きだね、有田。」


「おや?嫌いとは言わせないぜ、多良」

浴衣美人を見るにつけ、二人のテンションは上がりに上がった。


「浴衣バンザイ!日本人でよかった (ノ◇≦。)」


「泣くな、有田! ヽ(;´Д`)ノ」






「アテンションプリーズ!アテンションプリーズ!!」


しばらく歩くと、何やら通りの向こうで男が騒いでいる。

「ノー!このライフル、イカサマデス!!! ヾ(。`Д´。)ノ」




(ザワザワ)






大柄な外国人が、射的場で騒いでいる。

「ケチつけるのかい?!アンタの撃ち方がヘタなんだ!  (`Δ´) 」 すかさず店主がかみついた。

「しゃーらっぷ!【栗東のビリー・ザ・キッド】とはミーのことね! ヽ(`Д´)ノ」




(栗東?)




有田と多良崎は顔を見合わせた。




「このガン本物より軽すぎます!きっとこれはニセモノデス!!」

「当たり前だろ!!!! (▼Д▼;)」


「なんだ、あの外人野郎。栗東とか言ってたぞ。欧米の腐れジョッキーか?」


「ジョッキーにしてはフケてないか?どうみても50超えてるぞ」


「まあ、ほっとこうぜ。それより少し冷えたな。せっかくだし外湯にでもゆっくりつかってから戻ろうぜ。」


「いいね。」









その場を立ち去った二人は、気の向くままに名湯・秘湯をはしごした。やがて3軒目の湯船からあがりさすがに喉が渇いた二人は、街外れの「Mr.スペード」という名の店に立ち寄った。

「いらっしゃいませ」


「(雰囲気のいい店だな。)マスター、とりあえず生ビール。 (・∀・)/」


「かしこまりました。」


「こっちは・・・え~と、どうする有田?」


「カシスオレンジとポッキー。 (・∀・)/」


「ええええええええ!(((゜д゜;)))」


(つづく)




恩師の納骨が無事にすんだあと、一人の女性が多良崎を呼び止めた。





「多良崎くん、いろいろと手伝ってもらって悪かったわね。ありがとう。」

「奥さん、そんな・・・。それよりこれからも病院は続けていくんですよね?」

「ええ。あの病院は主人の意志がつまってるから。そう簡単にたたんだりしないわ。」


「よかった。じゃあ、僕も家の片付けがすんだら、すぐ行きますね。」


「ありがとう・・・」


「・・・多良崎くんは、たしか主人の競馬仲間でもあったわね?」



「え?は、はい。」


「じつは、あの人が所有していた競走馬の処遇に困っていてね。。」



「あ・・・」



「私はあの人が愛した馬を、知らない人に渡したくないのよ。そう、できれば・・・」



「・・・ぼ、僕ですか?」


先生は馬主として特別成功していたわけではなかったが、どの馬も一度の故障もなく競走生活を続けていた。先生はレースの結果に関わらず、愛馬たちのひたむきな姿勢に感動し、無事にレースから帰ってくることをいつも心の底から喜んでいた。



「いい話じゃないか、ありがたく受けとけよ」 後日相談に訪れた先で、有田が笑った。



有田の父親は会社経営の傍ら、関西有数の大馬主でもあった。そして、有田自身も若くして馬主資格を持つエリート実業家であった。


「馬主資格すら持ってないのに、無茶言わないでくれ」



「ちょうどよかった。おれも個人馬主なんて言ってるけど、一人だと色々面倒なんだよな。」


「だから?」



「だから。。おまえとくんでやる、と言っているんだよ。」



「何だって?! (°Д°;≡°Д°;)」



「共同馬主として、おまえの恩師の馬もまとめて面倒みてやるよ。」



「有田・・・」




「腹はくくったか?さあ、旗揚げの祝杯でもあげにいくか!」



「生活水にも困ってるのに、どこの酒場が営業してるんだよ・・・ ヽ(;´Д`)ノ」


裏庭がやけに騒がしい。



「ヒュンヒュンヒュン!」



「なんの騒ぎだ?」



「そろそろ準備ができたころだな。道路はあの渋滞だ。ヘリじゃなきゃ神戸から一歩も出れやしないよ。 (^ε^)」



「お、おまえ、ヘリを操縦できるのか?! ( ̄□ ̄;)!!」



「城崎にカニでも食べに行くぞ、早く用意しろ。」



「カ、カニは苦手なんだけど・・・ (^o^;)ゞ」



「・・・しらん!ほら、いくぞ! (゚∀゚)」



「ええええええええ!(((゜д゜;)))」



まだ震災の傷跡が生々しい、2月の凍てつく寒さの中、有田と多良崎はその第一歩を踏み出した。


「神戸ホースクラブ」が産声をあげた瞬間であった。


(つづく)




「う・・・ここは?」



多良崎が意識を取り戻したのは、芦屋の六麓荘という高台にある豪邸の一室だった。





「オッス!ようやくお目覚めかな。」



聞き覚えのある声だ。





「有田?!ここは・・・ ( ̄□ ̄;)」





多良崎の身を案じて駆けつけた旧友・有田が、彼の実家に搬送してくれていた。



学生時代はバスケで鍛えた屈強な身体と、建設会社を経営する父親譲りの雄弁さで、誰からも慕われた男、有田。そんな旧友の横顔にも、疲労と恐怖の色が見て取れた。




「多良崎、生きてて良かったよ。ほんと (`∀´) 」





「迷惑をかけたな・・・、スマン (-。-;)」





「よせって。それより、アパートにはしばらく戻らない方がいいぞ。こう余震が多いと、いつまたデカイのが来るかワカランからな。しばらくうちでゆっくりしていけ」





「すまない・・・ (-。-;)」







「おにいちゃん、おはよー! (^O^)/」




ベッドのそばで元気な女の子の声がした。





「あ・・・くるみちゃん、か? ( ̄□ ̄;) 」





2歳になる有田の愛娘であった。






「ねーねー、おにーちゃん。アンパンマンの「りんごのお祭り」しってるー?       ヘ(゚∀゚*)ノ」






「こら、くるみ、おにいちゃんはお風邪を引いてしんどいんだよ。もう少し休ませてあげようね?」






「しょーなんだー。フン!つまんないのー! ヽ(`Д´)ノ」







そういうと、部屋からプイっと出て行ってしまった。





「くるみちゃん大きくなって・・・。奥さん似で良かったな」





「・・・・言うな (T_T)」







「そうそう、電気は復旧したけど、ガスと水道はしばらくダメだみたいだぜ。」





「そ、そうか・・・そういや家の人はみな無事なのか?」





「ああ、カミサンもピンピンしてるよ。親父は運良くシンガポールに出張中でな。」





「さすが親父さん・・・あの強運は、ハンパじゃないな。 ヽ(;´Д`)ノ」





「まったく!今ごろニュースを見て、慌てふためいてるだろうよ。」





「電話もつながらないのか?」





「ああ。2時間かけつづけても、全くつながらねぇ。こんなことなら、伝書バトでも飼っとくんだったな。 ヽ(;´Д`)ノ」





「有田が伝書バド?食用にか? ( ̄∀ ̄)  」







旧友との再会は、多良崎にそこ知れぬ安心感を与えてくれた。故郷を離れ神戸で一人生きる多良崎にとって、この地で頼れる人間は、先生を除けばそうはいない。





「そういや、病院は無事なんだろうか?」





「体調が回復したら見にいってこいよ。」





「ああ。お世話になってるからな。こんなときこそオレたちの若い力が必要だからな!」





「ベッドで寝ながらよく言うよ  ┐( ̄ヘ ̄)┌ 」





「う・・・ (^▽^;)」








「それにしても、ヒドいことになったな。ニュースを見てみろよ。」





テレビに映し出された神戸の町の惨状は、まるで映画の世界のことのように思えた。





しかし、徐々に届きはじめた知人達の訃報を聞くにつれ、これがまぎれもない現実であることを、多良崎は受け入れざるをえなかった。



そんな中、テレビのニュースで先生の訃報を知ったのは、震災3日目の朝であった。






(つづく)




阪神大震災の前夜、多良崎にとって運命を左右する出来事がおこった。

彼にとってはめずらしく、数年ぶりに風邪をこじらせていた。



毎朝5:30に起床し、居間で朝食をとるのが彼の日課であったが、1月17日、その日に限り前夜からの悪寒のせいで、まだベッドから起き上がれずにいた。





「ダメだ、今日は休むか・・・。か、風邪なんていったい何年ぶりだろう・・・? (´д`lll) 」





すると、突然、ドーン!という衝撃が多良崎の身体を突き上げた。





「ゴーーーーー!!!」



「ガガガガガガガ!!!」


「ガシャン!バリン!ドーン!」





まるで洗濯機の中のぼろぞうきんのように、部屋中のありとあらゆるものが飛び交った。




それからどれくらいたったのだろう。ようやく我に返った多良崎は、この説明のつかない状況に思わず、「ドッキリだろ・・・?ヽ((◎д◎ ))ゝ」と口にしたが、例えようのない胸騒ぎを感じていた。




散乱する家具を押しのけ居間に出た多良崎は、我が目を疑った。毎朝彼が朝食をとる場所には、部屋の角に鎮座しているはずの、42インチの大型テレビが突き刺さっている。





「こんなところまでテレビが飛ぶか?!いったい何が・・・ (@Д@;」







この大震災で、いったいどれだけ多くの人が些細なことで命を拾い、あるいは落命したのだろうか?




― 普段より少し隣で寝ていて、タンスの下敷きにならずにすんだ老婦。 ― 


― 成人式に出席するため、帰省中の実家で生き絶えた若者。 ― 




数多くの人々が、運命のイタズラに翻弄された。







朦朧とした意識の中、通りに出た多良崎が見た光景は、それが現実か夢か判別するのに時間がかかるものであった。




見慣れた景色は一変し、道路は裂け、家屋という家屋は倒壊している。

ガスの充満した匂いが鼻をついた。ポケットのライターをとる手が空を切る。




アスファルトの上にはまだ暖かいであろう骸が無造作に並んでいる。

通りは既に大勢の人であふれかえっていたが、どういうわけか、気味が悪いほどの静寂があたりを覆っていた。








「チッ、足がふらつく・・・ ( ̄Д ̄;」







額に手をあててみるが、もはや自分に熱があるかも分からない。多良崎はひとまず避難所に向かうことにした。





避難所となった小学校は、多良崎の母校でもあった。




「この場所に、こんな形で帰ってくるとは思わなかったよ・・・」




そうつぶやきながら、慣れた足取りで保健室へと向かう。







「もっと水をもってきて! \(゜□゜)/」




「血が止まらないわ!ガーゼはもうないの?!!!!! ヽ(`Д´)ノ」







保健室は、さながら野戦病院の様相を呈していた。




バツが悪そうな表情で、体温計を借りる。







「(こんなときに風邪なんて、我ながら情けない・・・) (-。-;)」







なるべく治療の邪魔になるまい、と部屋の片隅に移動する多良崎。



しかし、手にした体温計が40度を指した次の瞬間、彼はその場に力なく崩れ落ちた。





(つづく)




神戸の六甲山でひっそりと開業している「岡田アニマルホスピタル」。犬猫を中心とした動物病院が、当時の多良崎の職場であった。





世のペットブームも手伝ってか、こんな山奥でも来院者が途絶えることはなく、多い日には何十組というペットと飼い主が治療に訪れた。





やがて評判を聞きつけた芦屋レーヌや名門女子大生が数多く訪れるようになったのだが、おかげで病院の待合室はさながら「サロン」と化し、「裏六甲の隠れ家」というありがたくもない呼び名がつくようになっていた。










病院は10年前に院長とその奥さん2人で開業し、やがて多良崎たち6人の助手が夫婦をサポートするまでに大きくなった。





院長である岡田先生は、丹精なマスクと関西人ならではのユーモアセンスを持ち合わせた初老の男性で、上司として、一人の友人として尊敬できる人物であった。








「さっきのワン公、飼い主に可愛がってもらってたなぁ」





「そうですね、先生。うらやましいんでしょ?」





「そう、実にうらやましい!・・・オレなんて・・・ウッ!(ノ_-。)」





「 (泣いてるの?) (^_^;)」









「そんなことより、多良崎くん、明日も予定は空けておいてくれよ」





「ええ、言われなくても空けてますよ。毎週、毎週飽きもせずに好きですねぇ、競馬」





「動物はやっぱりいいよ、きみ。人間を裏切らないからね!」





「いっつも馬券で裏切られてるくせに、よくいいますよ」





「・・・・。」










先生は職業柄、動物をこよなく愛していたが、中でも馬、とりわけ競走馬の美しさに心酔していた。週末はこうしていつも競馬場に通い、間近でレースを観戦するのが生きがいになっていた。馬好きが高じて、ついには個人馬主にまでなってしまう熱の入れようであった。






「明日は神戸の知人の馬がデビューするんだよ。」





「3Rの新馬戦でしたっけ?え~っと、たしか・・・」





「マヤノトップガンだよ、多良崎くん」





「トップガンか・・・いい名前ですね。でも、デビューが1月ってのは少し遅いですね。勝てるんですかね?」





「おいおい、 『勝ち負け』 なんてのは二の次だよ。きみ!」





「はぁ・・・」







「無事にデビューさせることがどれだけ大変なことか-。獣医のはしくれなら、君にだってわかるだろう?」





「 (はしくれ・・・)  (-。-;)」





「生産者、厩舎関係者、オーナー、どれだけ多くの人々の努力があって、この晴れの日を迎えられると思ってるんだ! ウウッ!(ノ◇≦。)」





「 (また、はじまった) (-。-;)」















翌日、パドックでみかけたその馬は、栗毛の馬体がまぶしい見事なサラブレットであった。やがて、この若駒と、少なからぬ因縁を持つことになろうとは、この時多良崎は知る由もなかった。





好走を期待させる絶好の気配に、多良崎は迷わず馬連で勝負をかけたが、結果はまさかの惨敗。「マヤノトップガン」という名の若駒は、多良崎の「嫌いな馬ランキング」にめでたくランクインされることになった。







「マヤノトップガン5着か!こいつは今後が楽しみだ!」





「”楽しみ”って、完敗じゃないですか・・」





「おいおい、馬券外したからって、そう怒らなくてもいいだろう?」





「すいません、外したのは僕だけじゃないですもんね。。。。はぁ、明日からまた”のり弁当”か。。」





「ん?馬券ならホレ、この通りGETしたよ!」





「へ?!(°Д°;≡°Д°;)」








「オーナーに聞いたんだが、まだ本調子じゃないらしいよ。トップガンくん」





「そういった裏情報は、リークしてくださいよ!( ̄□ ̄;)!!」





「よし、今日もこの調子でいくでー! (≧▽≦)」





「ちょっと、先生~!!!ヾ(。`Д´。)ノ」
















こうして、1995年1月8日は、ありふれた日常の1ページとして過ぎていった。しかし、この日からわずか数日後、先生は突然この世を去った。












1995年1月17日、早朝。



あの朝が、先生の幸せな人生を奪い、そして多良崎たちの人生を大きく変えていった。











(つづく)