有田の実家の1室を事務所にして始動した「神戸ホースクラブ」であったが、その前途は多難であった。先生から託された馬たちは、有田の豊富な資金力の元、無事にレースに出続けることができたが、主の死をしってか、レースでの結果は散々で、長い間勝ち星からは遠ざかっていた。





それでも、多良崎や有田に暗さはなかった。むしろ、馬主としては苦戦を強いられてはいたが、1頭として故障することなく、その競走生活を全うさせてやれることに、大きな満足感をおぼえていた。


「ふー、ようやくおまえの恩師の愛馬も全部片付いたな・・・」



「おいおい、有田。片付いた、はないだろ?」



「冗談だよ。それよりも、ぼちぼち攻めに転じる時だぜ。」



「嬉しそうだな、有田。」




「ワァーーー!」部屋の片隅においてあるテレビから、歓声が聞こえた。



「お、春天がスタートするみたいだ。見ようぜ。」




二人はテレビの前に座った。



「サクラローレルとマーベラスサンデー・・・多良はどっちだと思う?」



「・・・・。」



テレビに映し出された競馬中継では、今まさに天皇賞(春)がスタートしようとしていた。



「マヤノトップガン・・・(ボソッ)」



「ん?何かいったか?」



「いや、岡田先生の生前に、一緒にマヤノトップガンの新馬戦を観戦してね。。あの日の若駒が、ここまで成長するとは・・・分からないもんだね」



「いい馬だ。たしかにいい馬だよ、多良。しかし今日は相手が悪い。このレース、ローレルとサンデーで決まりだぜ」



「そうだな・・・」





「ガシャン!」


スタートした。レースはまるでローレルとサンデーのマッチレースのように、お互いが相手をマークしてすすんだ。



「ワァァァ!さあ、レースは4コーナーを回って、最後の直線!ローレルが先頭に立った!これをマーベラスサンデーが追走する!」



「抜けた抜けた、2頭が完全に後続を突き放した!さあ、最後の直線、ローレルか?サンデーか?!後ろからは何も来ない、後ろは完全に・・・・・え?!」



誰もが2頭での決着と思った瞬間、淀のターフに1陣の風が吹きぬけた。


「ああああ!大外から何か1頭飛んできた!!!こ、これは・・・」



「トップガンだ!トップガンだ!大外から一気にマヤノトップガンが飛んできた!」


「ウソだろ?! (((( ;°Д°))))」有田が立ち上がった。



「いけー!」多良崎が叫ぶ。




「意地でも抜かせないローレル!懸命にくいさがるサンデー!さあ、ゴール前は3強の争い!」



しかし、狙いすまされた鬼脚の前に、さすがのローレルたちもなすすべはなかった。



「トップガンが先頭に立った!トップガンだ!トップガンだ!マヤノトップガンが今先頭で・・・ ゴールイン!」


「よーし!!!!」





多良崎は、拳を天に突き上げた。目にはうっすら涙を浮かべている。


「多良崎、おまえ・・・」



阪神大震災の復興のさなか、自らも目覚しい成長をとげた神戸のスターホース・マヤノトップガン。



一人旅の菊花賞、ナリタブライアン・ヒシアマゾンを蹴散らした有馬記念。
カネツクロス・ダンスパートナーを制し、地元阪神に凱歌をあげた宝塚記念。
復興に燃える地元・神戸の人々に、夢と希望を与えてくれた名馬であった。


「マヤノトップガンか・・・。多良崎、おまえ惚れたな?」



「ああ・・・」




マヤノトップガンがこの日二人に与えた衝撃は、数年後、とてつもなく巨大なうねりとなってターフを飲み込むことになる。


(つづく)