それはまた別の話 | ワビとサビ

それはまた別の話

部屋でゴロゴロする。これといった用も特にない。


外は大気の状態が不安定らしい。雷鳴が時折響き、時に強く、また次の瞬間にはぱっとやむ雨。


気だるい夏の夜。


部屋でゴロゴロして手の届く範囲に積み上げてある文庫本の山から一冊取り出す。


無作為に選んだ本は、ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック    村上春樹      だった。


この本は一度読んだことがある、そして一度読んだ本を読むのは楽である。内容を知ってるから。


ぼんやり読み始めたのだけど思いのほか内容に引き付けられた。


特に印象深かったのがゼルダ・フィッツジェラルドの短い伝記だった。


ゼルダはスコットの妻である、本に写真が掲載されているが本当に美しい女性だ。


スコットが「アラバマ、ジョージア2州にわたって並ぶものなき美女」というのもうなずける。そして、スコット自身も映画俳優のような整った顔、今で言う「イケメン」である。


スコットには文章の才能、容姿、妻のゼルダにも素晴らしい美貌があった。


けれど、彼らの生活が幸せ一色であったかというとそうではない、ゼルダは精神病院に出入りを繰り返し、スコットも自分の自信作が高い評価を受けず困惑したりしていた。

ゼルダは精神病院に入院中に火事で焼死した。若いころ美しかった彼女は中年のその時、まるで老年を思わせる容姿であったという。彼女の昔を知る人はその変貌振りに驚いたそうだ。


ゼルダの亡くなる何年か前に、スコットは、愛人のアパートで心不全でこの世を去っている。


文章の才能、素晴らしい美貌、それと幸せになることは別である。

僕は文章の才能も恵まれた容姿もない、他人と比べ頭一つ優れてるものすらない。

でも、才能と幸せが別物なら、僕にも今より幸せになれるチャンスはあるのかもしれない。

才能と幸せ、それはまた別の話なのだ。


幸せという幻に憧れる28歳の夏。