知らなかった事が後になって分かる事があります。

30数年の時を経て、やっとわかった事。

この再会がなければ、永遠に分からなかったかもしれません。

 

 

Sさんの存在があったからこそ、こうして由美と30数年ぶりに再会できた私。

由美の言うように、Sさんは絵美の生まれ変わりだったのかもしれません。

 

悲しいままの記憶で終わって欲しくない。

絵美そんな思いが時を経て蘇ったのかもしれない・・・。

 

「いけべえさん、あなたとこうしていると、あの頃の記憶が次々と

 思い出されて来るわ。楽しかったあの頃が・・・」

由美はそうつぶやきました。

 

正直、私も同じ気持ちだったんです。あの楽しかった頃の思いが次々と

思い出されます。

 

由美は私の方を見て、微笑みながら、

「あの頃ね、姉があなたと付き合い始めて、元の明るさを取り戻した時

 私、すごく嬉しかったの。以前の姉に戻ったって。

 貴方を見てると、あの時の姉の嬉しそうな姿は今でも目に浮かぶわ」

 

「私も絵美とは人生最初のお付き合いだったからね。正直、ホント一生懸命だったよ。

 恋愛の仕方が分からなかったからね」

私は頭をかきながら苦笑い。

 

「そういえば、マスターにも言われてたものね。恋愛オンチって」

由美も笑いながら思い出したみたいでした。

 

すると由美が急に何かを思い出したように

「ホントはね私、あなたの事全然何とも思ってなかったの。姉の彼氏位にしか。

 でも姉が亡くなってから、あなたは毎日マスターのお店に通ってた・・・。

 姉がいつか帰ってくるんじゃないかと。あなたはずっと待っていた・・・」

 

私は驚いてしまいました。何故由美がそんな事を知っているのかと。

 

由美はさらに

「半年ほど立ってから、あなたはマスターに、

 ”もう絵美はこの世にいないんだ、ここにだって来る訳ないのにね、バカだね”

 そう言ってマスターの出してくれたコーヒーを飲んでずっと泣いてたでしょ。

 あの時ね・・・、私・・・、お店の奥にいたのよ」

 

「えっ?君があの時お店にいたなんて・・・。知らなかった・・・」

由美はお店の奥で一部始終を聞いていたそうです。

まさか由美があそこにいたなんて、思いもしませんでした。

 

「そんなあなたの姿を見てね私、あなたを励ましてあげたくなったの。

 元の明るい姉に戻してくれたあなたを、今度は私が励ましてあげなきゃ。

 そんな思いがあの時こみ上げてきてね」

由美は懐かしそうにそう語ったのです。

 

「そうか・・・、そうだったんだ・・・。君が急に私の事を ”励ましてあげる” と

 言って来た時、何で俺の事なんか励ますんだろう?って、すごく

 不思議に思ったけど、全て知っていたんだね・・・」

あの時由美は、絵美の死をようやく受け入れた私の姿を見ていたのでした。

 

あの当時、まだ高校生だった由美。彼女がそんな行動に出た訳が、

30数年の時を経て、やっと分かったのでした。

 

 

 

   ~落とした心を 探しに出かけたら

     あなたの心の 扉を開けていた

     はじめての はじめての 心の安らぎ

     そこからは そこからは もう孤独じゃない~

 

 

 チューリップ 「Shooting Star」 より