ついこの間の事だと思っていたのですが、不世出のロック&ソウル・アーティスト、プリンスが亡くなってから、もう3年も経っていたんですね。80年代を代表するスターであり、その後もセールス的には、過去に匹敵することはできないまでも、創造的な制作活動を行っていただけに、早すぎる死は、ポップ・ミュージック界にとって、大きな痛手でした。

 

そして、今年になって、彼のポップ・ミュージックに対する貢献を、改めて感じることができる作品が発表されました。プリンスが、他人に提供した曲の、自身によるデモ録音を集めたアルバムがリリースされたのです。

 


Originals / Prince
2019年発表

 

いわゆるセルフ・カヴァー集でありますが、クレジットを見ていると、他のアーティストに提供する前の録音であるようです。通常、セルフ・カヴァーというと(特に日本の場合)、提供した後に、作者本人が録音するというパターンが多いのですが、今回は、基本的に、プリンス本人が、自らのアルバムに収録するつもりで、録音したもののようです。

 

確かに、自らのアルバムに入れるよりも、曲の雰囲気に合致したアーティストが歌った方が、作品の質がさらに上がっているような感じがいたします。プリンス・ファミリーへ提供された曲も多いですが、この時代の彼の存在感をしっかりと感じる作品でした。

 

① Sex Shooter
② Jungle Love

まずは、映画「Purple Rain」のヒロインとなったアポロニア・コテロを中心としたグループ、アポロニア6が、84年にシングルとして発表した①。83年4月にプリンスが録音したものです。そして、②も、プリンス・ファミリーの1つ、モーリス・デイ率いる、ザ・タイムの84年のシングル・ナンバー。本人ヴァージョンは83年3月に録音されています。
https://www.youtube.com/watch?v=VimhzZyd0Wc

 

③ Manic Monday
バングルズのブレイク作として、86年に大ヒットした③。名作「Purple Rain」の録音時期に録られたもの。やはり、スザンヌ・ホフスのヴォーカルが似合う曲です。

 

④ Noon Rendevous
⑤ Make-Up
⑥ 100 MPH
⑦ You're My Love

④もプリンス・ファミリー、シーラ・Eのデビュー・アルバム収録曲。⑤は古く、アポロニア6の前身、ヴァニティ6が82年に発表したアルバム収録ナンバー。プリンスのバックバンド、ザ・レヴォリューションのベーシストが結成したバンド、マザラティに提供されたのが⑥。⑦はゆったりとしたポップな曲で。本人の録音は82年のようですが、これが、なんと、ケニー・ロジャースにより、86年に陽の目を見ています。
https://www.youtube.com/watch?v=3o84aYs15go

 

⑧ Holly Rock
⑨ Baby, You're a Trip
⑩ The Glomprous Life

映画「クラッシュ・グルーヴ」のサントラで、この映画にも出演したシーラ・Eが歌ったナンバー。メローなソウル・バラードの⑨は、ジル・ジョーンズが87年のデビュー・アルバムで取り上げたナンバー。そして、お馴染みの⑩は、シーラ・Eのデビュー・アルバムに収録された、彼女のデビュー・シングル。やはり、これもシーラ・Eのヴァージョンの方が盛り上がります。
https://www.youtube.com/watch?v=F8jjS3hCQRo

 

⑪ Gigolos Get Lonely Too
⑫ Love... They Will Be Done
⑬ Dea Michaelangelo
⑭ Wouldn't You Love to Love Me?
⑮ Nothing Compare 2 U

⑪もスローなソウル・バラードで、②と同じく、ザ・タイムが83年にシングルとして発表しています。⑫はマルティカという女性シンガーが91年に取り上げたナンバー。テンポの良い⑬は、これまたシーラ・Eが、85年の彼女の2ndアルバムで取り上げた、プリンスとの共作ナンバー。81年に造られた⑭が陽の目を見たのは、87年にタジャ・セヴェルが取り上げたからでした。そして、ラスト⑮は、プリンス・カヴァー曲の最高峰とも言って良い、90年のシンニード・オコナーのカヴァーが印象深い、大名曲。最初に陽の目を見たのは、プリンス・ファミリーによるバンド、ザ・ファミリーの85年の1stアルバムでした。
https://www.youtube.com/watch?v=cpGA0azFdCs


プリンスの豊かな才能を感じさせるアルバムであり、かつ、誰に歌わせることよって、曲が活きてくるかを、見事にコントロールしていたことが良くわかるオリジナル作品集でした。やはり天才だった。