90年代から00年代を駆け抜けてきたUSのオルタナ系アーティスト、ベック。08年の「Modern Guilt」以来、脊髄損傷という体調不良もあり、しばらくナリをひそめていた感もありました。

そんな状況下でも、音楽に真摯に取り組み、黙々とほぼ一人で音楽制作を行っていたようです。前作から6年の月日を経て、このたび発表された新作。今年2014年はおろか、10年代を代表する名盤になるのではと思われる、素晴らしい作品が出来上がりました。

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Morning Phase / Beck

14年発表

ブルーズ、カントリー、R&Bなど、アメリカのルーツ・ミュージックをベースに置きながら、それらに現代的解釈を加えながら、モダンなサウンドを作りあげてきたベック。

これまでは、ビートの効いた曲も多く、かなり変化球多投系のアーティストという印象が強かったのですが、今回はその印象が全く変わりました。とにかく美しく澄み通ったようなサウンドに全編が覆われてます。

大変身を遂げたロキシー・ミュージックの「Avalon」を聴いた時に匹敵するくらいの衝撃。格調が高く、内に秘めたようなパッションが感じられる一方、なぜか懐かしさを感じるルーツ・ミュージックの香りが、はっきりと感じられる、凄みを感じました。

① Cycle
② Morning
1分に満たないインスト・ナンバー①は、前奏曲的な位置づけ。イーノのアンビエント・ミュージックに通ずる、美しいシンセの波。実質的なオープニング・ナンバーの②は、アコースティック・ギターのゆっくりとしたリズム感と、エコーのかかったベックのヴォーカルで、思わず天上に連れて行かれるような心地良さを感じます。
http://www.youtube.com/watch?v=GZo8_IV0IGQ

③ Heart Is a Drum
④ Say Goodbye
⑤ Blue Moon
CSNYにも通ずるような、美しいコーラスを取り入れた、バラード・ナンバーの③。ややビートの効いた④は、これまたアコースティック・ギターをバックにベックが歌うナンバー。ややテンポ・アップした⑤は、格調の高いポップ・ミュージックといった感じ。ベックのソング・ライティング力も楽しめます。
http://www.youtube.com/watch?v=WIWbgR4vYiw

⑥ Unforgiven
⑦ Wave
⑥はプログレと言ってもいい位のスケールの大きく、静かなサウンド中に熱さを感じるナンバー。シンセの海を漂うかのようなベックのヴォーカルが崇高な輝きを感じる⑦は、実に厳か。
http://www.youtube.com/watch?v=m2DLZkv4Yvg

⑧ Don,t Let It Go
⑨ Blackbird Chain
アコースティック・ギターを爪弾きながら歌われる⑧は、ネオ・アコに通じるナンバーですが、音の感触はいたってモダン。⑨もアコギを使ったカントリー風ナンバー。ゆったりとしたリズム感がいいですね。

⑩ Phase
⑪ Turn Away
⑫ Country Down
⑩は1分ちょっと、シンセのみのインスト・ナンバー。間奏曲って感じです。ブリティッシュ・トラッドのような陰影のあるメロディが印象的な⑪は、多重録音で美しいハーモニーを聴かせます。スライド・ギターも入ったカントリー調の⑫は、ようやく従来のベックらしさを感じさせます。
http://www.youtube.com/watch?v=tq3IQllIXNM

⑬ Waking Light
そしてラストに配された⑬は、スケールの大きな叙情的ナンバー。歴史に残るかも知れない名曲です。「目覚めの灯り」というタイトルは、まさにベックの覚醒を象徴するものでないかと思います。ベスト・トラックです。



元来、末尾4の年は名作が多数出る傾向にありますが、このアルバムはそのさきがけなのでしょうか。今年は、この他にも大物の新作が期待されているので、今後が楽しみです。