ジギー・スターダストという架空のキャラを演じることをやめたデヴィッド・ボウイは、その後も「アラジン・セイン」「ダイアモンド・ドッグ」「シン・ホワイト・デューク」など、カメレオンのように、いろんなキャラを演じ、70年代終盤にはヨーロッパの旅人として1つの頂点に辿り着きます。さらに、その後も、洋服を着替えるかのように、様々なキャラクターやいろんなタイプのサウンドを奏でてきました。

そんなボウイが、ジギーに変わるキャラ、アラジン・セイン(ア・ラッド・インセイン)を演じた後、自らのルーツを確認するかのように、60年代中頃のUKロック・シーンを飾った曲ばかりで占めたカヴァー・アルバムを発表しました。

今晩は久々の「カヴァーズ&トリビューツ」で、そのアルバムをピックアップしたいと思います。

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Pinups / David Bowie

73年発表

アルバムの裏ジャケットには、ボウイ自らのコメントとして、「これらの曲は64~67年のロンドンで流行った自分の好きな曲。多くのバンドはマーキーなどのクラブ・サーキットで演奏していた。うち、いくつかのバンドはまだ存在している。」と記されています。

これからご紹介する曲のオリジナルを創ったバンド名は、当時のロンドンのロック・シーンで評判になったものばかりですし、当時の熱い息遣いを感じさせるナンバーばかりです。

もちろん、ボウイならではの、特に前作の「Aladdin Sane」のような前衛的なピアノが間奏に入る曲もあり、当時における現代性も加味してた内容になっています。前作でストーンズの「Let's Spend the Night Together」をカヴァーしたことが、このアルバムにつながった感じもいたします。

いずれにしても、こういった曲たちが、ボウイのグラム・ロックを生み出す源泉になっていたことがわかります。

① Rosalyn
② Here Comes the Night
 オープニングはザ・プリティ・シングスの①からスタート。なんとなく、ボ・ディドリーを思い出させるギターの音が印象的な、小刻みなリズム感のナンバー。②はヴァン・モリソンが在籍したことで有名なゼムのナンバー。ホーン・セクションも入り、オリジナル以上に厚みのあるアレンジです。
http://www.youtube.com/watch?v=Eyv00KsytDo

③ I Wish I Would
④ See Emily Play
⑤ Everything,s Alright
 ③はザ・ヤードバーズが取り上げていたナンバーで、オリジナルはシカゴのブルーズ・ミュージシャン、ビリー・ボーイ・アーノルド。ヤードバーズのヴァージョンは、ほぼ全史を通じて録音が残っているようです。シド・バレット在籍時のピンク・フロイドのヒット曲④もカヴァー。この曲は確かにボウイに似合ってます。ザ・モージョーズの64年にヒットした⑤では、ビート・バンド風のナンバーをご機嫌なロックン・ロール・アレンジで聞かせます。
http://www.youtube.com/watch?v=yytTqi2CNvE

⑥ I Can,t Explain
そして、A面ラストを飾るのは、ザ・フーのデビュー曲⑥。ボウイもザ・フーが好きだったんですね。オリジナルよりは、ゆったりとしたアレンジです。


⑦ Friday on My Mind
⑧ Sorrow
 マルコムとアンガスのお兄さん、ジョージ・ヤングが在籍していたことでも有名なオーストラリア出身のバンド、ジ・イージービーツのナンバー⑦からB面がスタート。シングル・カットされた⑧は、リヴァプール出身のザ・マージーズがヒットさせた、USのザ・マッコイズがオリジナルのナンバー。
http://www.youtube.com/watch?v=LxDVc80Z3FI

⑨ Don,t Bring Me Down
⑩ Shapes of Things
 ⑨は再びザ・プリティ・シングスのハードなナンバー。⑩も再びザ・ヤードバーズのナンバー。こちらはジェフ・ベック時代のシングル・ナンバー。

⑪ Anyway, Anyhow, Anywhere
⑫ Where Have All the Good Times Gone
 さらに⑪では再びザ・フーの登場。⑥に続く2ndシングルとして発表されたナンバー。こちらはほぼオリジナルに忠実なアレンジです。そして、ラストに持って来たのは、ザ・キンクスの3rdアルバムに収録されたナンバー。「Till the End of the Day」のB面でもあったようです。さらに、このアルバムに取り上げられたことで、パイ・レコードはキンクス・ヴァージョンをシングルで発表したのだそうです。
http://www.youtube.com/watch?v=08tCskqM5Y4


この手のカヴァー・アルバムには珍しく、時期と地域がほぼ同じナンバーを集め、アルバム全体としての統一感を保っているのが興味深いですね。

原点を回帰を目指し、新たな展開を目論むボウイの気合いを感じる1枚です。