馴染みのアーティストが、別のアーティストの曲をカヴァーしたり、特定のアーティストのトリビュートで、たくさんのアーティストが参加しているのを聴くのは、オリジナル・アルバムとはまた違った楽しみがあります。そんな楽しさを伝えたくて作った「カヴァーズ&トリビュート」の書庫ですが、最近、あまりその手のアルバムはゲットしてなかったので、かなり久しぶりになります。

そんなブランクを補って余りある、この書庫に相応しいアルバムが最近発表されました。トリビュート・アルバムのように、参加しているアーティストが多種多彩、カヴァーされてるアーティストも60年代から70年代まで多種多彩、まさにn:n対応のヴァリアス・アーティスツによるカヴァー・アルバムをご紹介します。

子供が戦争の犠牲になるのを防ごうというチャリティ活動の一環として発表されたチャリティ・アルバム。60~70年代にかけて活躍したベテランの曲を90年代以降の若手がカヴァ-している作品です。

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War Child Heroes: The Ultimate Covers Album

09年発表

アルバムのライナーによると、カヴァーされる側のベテラン・アーティストが、自分のキャリアの中から1曲を選び、それを自ら指名したアーティストにカヴァーしてもらうという形で、編成されたものです。指名された側には選択権はなかったように書かれてましたが、まあ、実のところはいろいろな調整があったのだと思います。

ただ、素晴らしいのは、どの曲もオリジナルのクォリティを落とすことなく、若手独自の色をつけて、見事09年のサウンドとして甦らせているところでした。過去の素材を自分なりに焼き直すという手法は、ジャズやクラシックと同じことになりますが、こういうコンピで遊び(or ヴォランティア)でやってくれると、それなりに楽しいものです。

それでは今回の15曲。紹介して参りましょう。曲名(オリジナル・アーティスト名)/演奏アーティスト、といった感じでご紹介いたします。

① Leopard-Skin Pull-Box Hat (Bob Dylan) / Beck
相変わらず好調に良質の作品を創り続けるベックが、このアルバムの冒頭を飾りました。ボブ・ディランのヴァージョンとは、全く違いますが、ディラン自身が再演したらこんな感じになるのかなぁと錯覚してしまうくらいハマってます。それでも正真正銘のベック・サウンドにアレンジされていて、ベック・ファンにも十分に楽しめる作品です。
http://www.youtube.com/watch?v=3rnf74TPLaM&feature=related

② Do the Strand (Roxy Music) / Scissor Sisters
③ Straight to Hell (The Clash) / Lily Allen ft. Mick Jones
エレクトロニックなアレンジを施したロキシー・ミュージックの初期の代表作。このシザーズ・シスターズは名前のみしか知りませんでしたが、大胆なアレンジながら、「Flesh + Blood」あたりのロキシーのサウンドに通ずるものがあります。さらに2ndアルバムが好調のリリー・アレンが、元ザ・クラッシュの曲をクラッシュのメンバーであったミック・ジョーンズをフィーチャーして披露。「Combat Rock」からシングル・カットされた「Should I Stay or Should I Go」のB面の曲のようです。私も知らない曲でした。

④ Live And Let Die (Paul McCartney) / Duffy
ポールによる唯一の映画007シリーズの主題歌、邦題「死ぬのは奴らだ」を、昨年、衝撃のデビューを果たしたダフィーがカヴァー。彼女独特の舌っ足らずのヴォーカルで、しっとりとカヴァーしてます。オリジナルのドラマティックな展開はないですが、余計に曲の良さが伝わって来ます。
http://www.youtube.com/watch?v=_EUWAuMZG5g

⑤ Running to Stand Still (U2) / Elbow
⑥ Heroes (David Bowie) / TV on the Radio
⑦ Transmission (Joy Division) / Hot Chip
01年デビューしたUKバンドエルボーがU2の「The Joshua Tree」に収録されていた曲をカヴァー。原曲の荘厳さはキープしています。続くTVオン・ザ・レイディオは02年に「OK Calculator」(ワッハッハッハ)でデビューした、ニューヨークのバンド。昨年、結構話題になってました。ボウイのベルリン時代の代表曲を、エレクトロニカ風にカヴァー。一応、アルバム・タイトル曲ということですね。さらに03年にデビューしているUKのエレクトロポップ・バンドホット・チップが、伝説のUKポスト・パンク・バンド、ジョイ・ディヴィジョンの曲をカヴァー。凍てついた雰囲気をうまく、エレクトロニカで表現しています。この3バンドは、ほとんど知りませんでした。

⑧ Victoria (The Kinks) / The Kooks
昨年の2ndアルバムで、そこそこのブレイクをしたザ・クークスが、ザ・キンクスの代表曲をカヴァー。キンクスの中でも、かなり好きな曲ですし、さらに新進気鋭のクークスが原曲に忠実でいながら、彼ららしさを存分に出しており、このアルバムでも、個人的には一、二を争うトラックです。ご本家レイ・デイヴィスと共演している映像がありました。
http://www.youtube.com/watch?v=-uBqZYLp2i4&feature=related

⑨ Superstition (Stevie Wonder) / Estelle
⑩ Melody from Brian Wilson,s Smile / Rufas Wainwright
⑪ Search And Destory (Iggy Pop) / Peaches
UKの黒人女性シンガーエステラが、泣く子も黙る「迷信」をカヴァー。続くブライアン・ウィルソン・メドレーは、98年デビューのカナダ出身のシンガー・ソングライター、ルーファス・ウェインライトがカヴァー。ウェインライトの伸びのあるヴォーカルで、名曲を再現。95年から活動しているこれまたカナダ出身のエレクトロニカ系の女性シンガー、ピーチズが、イギー・ポップの曲をミニマルな雰囲気でカヴァー。

⑫ Atlantic City (Bruce Springsteen) / The Hold Steady
ブルース・スプリングスティーンの超地味アルバム「Nebraska」に収録され、US以外でシングル・カットされた曲をザ・ホールド・ステディという04年にデビューしたブルックリンのバンドが、全盛期のボスのサウンドのようなアレンジで見事にカヴァー。下記の映像のサイトの関連映像には、このアルバムからの曲がいっぱい紹介されてます。
http://www.youtube.com/watch?v=l4Tsba8feng

⑬ You Belong to Me (Elvis Costello) / The Like
⑭ Sheena Is a Punk Rocker (The Ramones) / Yeah Yeah Yeahs
カリフォルニアの女性3人バンドザ・ライクが、コステロの2ndアルバム収録曲をカヴァー。3rdアルバムとなる最新作がクロスビート誌最新号で、ピック・アルバムとしてプッシュされていたヤー・ヤー・ヤーズは、ニューヨーク・パンクの元祖、ザ・ラモーンズの有名曲をカヴァー。私の会社の椎名クンはパンク・ロッカーではありません。

⑮ Call Me (Blondie) / Franz Ferdinand
そしてラストは、最新作が好調で、日本のTVCMでも取り上げられているフランツ・フェルディナンドが、ブロンディの超有名曲をカヴァー。ほとんど、オリジナルに忠実なアレンジなんですけど、適材適所といいましょうか、完全にフランツ・サウンドになってます。この曲だけライヴで収録されてました。


カヴァーしている方に知らない人が多いのは仕方ないとは思いますが、カヴァーされる側の方で、アーティスト名はさすがに知ってても、曲は知らない、覚えてないというのが、いくつかありました。定番以外の曲もこうやって、若いアーティストに取り上げられて、永遠に残って行けばいいことだなぁと思います。

チャリティの内容そのものは、かなり重いものでしたが、サウンドの方は本当に楽しい、良くできた作品でした。