最近では、離婚慰謝料の金額で日本のポスト・現代といった週刊誌でも話題になっているジェームス・ポール・マッカトニー卿ですが、20世紀のモーツァルトが、こんな事で騒がれているのは、嘆かわしい次第です。

そんな彼の素晴らしい音楽について、今晩は語ってみたいと思います。昨年末の「20世紀のロック・アルバム」のファン投票で、見事2票を獲得し、晴れてこの書庫に登場することができました。

イメージ 1

Venus And Mars / Wings

当ブログファン投票 第48位(07年)
75年発表

70年のビートルズの解散は、多くのファンにとって悲しい出来事だったと思いますが(私は小学生でなんとなく、そんな事があったらしいと聞いていた程度ですが)、やはり、最も解散を残念に思ってたのはポール自身であったと思います。他の3人は、早くビートルズから逃れたいと思っていたと想像できますが、こと、ポールだけはこのユニットを継続させたいと強い意志を持っていたと思います。その彼の脱退を以って、ビートルズ解散となったことは全く皮肉なことであります。

そのショックからか、その後のソロ活動も、ソングライターとしての才能の片鱗は見せながらも、極私的な作品を発表し、ビートルズ時代に迫る活躍を見せることは、当初はなかったですね。それが、ウィングスというバンドを結成し、元ムーディ・ブルースのデニー・レインという音楽パートナーを得て、「Red Rose Speedway」や「Band on the Run」というアルバムを発表するとともに、「My Love」「Jet」「Band on the Run」と言ったヒット・シングルを立て続けに発表し、ジワジワと本調子に戻りつつありました。

このアルバムの前作となる「Band on the Run」は、彼のソロ・キャリアの中でも最高傑作とも言われますが、ポールと奥様リンダ・マッカトニー、そしてレインの3人で作られた作品だけに、バンドとしての作品とは、ちょっと言いがたいものでした。(もちろん、大名作ではありますが。)

しかし、ビートルズ時代からライヴを重視していた彼としては、この「Band on the Run」の成功をキッカケに、ウィングスをバンドとして機能させるべく動き出しました。まずは、オーディションでジミー・マッカロックというギタリストをゲットし、ニュー・オーリンズでのレコーディングに、セッション・ドラマーとして来ていた、アメリカ人のジョー・イングリッシュをバンドに加え、5人組みのウィングスを始動させました。この5人による、初のアルバムが、今晩、ご紹介するアルバムです。

日本に来そこなったのも、映画「Rockshow」も、3枚組!ライヴ「Wings over America」も、みなこの5人のユニットによるものなので、私もウィングスと言えば、この時期のメンバーを思い出します。

オープニングはアコギによるポールの弾き語りっぽい感じのアルバム・タイトル曲「Venus And Mars」。バックの(たぶん)リンダによる単音シンセの伴奏が温かみを感じます。そして、ロック・チューンの「Rock Show」。エンターテイナーとしてのポールの力量全開といった感じの素晴らしいノリ。歌詞には、ジミー・ペイジやハリウッド・ボウルも出てきます。この2曲を、初めて聴いた時、「あぁ、ポールはこれでやっと、ビートルズから抜け出せたな!」と、感慨に耽ったものです。(中3の私が偉っそうに!)
映画「Rockshow」のオープニング映像から、この2曲です。


派手なオープニングから一転、「Love in Songs」は、「ホワイト・アルバム」に入ってそうな、シンプルでメロディの美しい、しっとりとした佳曲。出ました!ポールお得意のオールド・ポップ・ソング調の「You Gave Me the Answer」。中期ビートルズを思わせる雰囲気。

スティーヴィー・ワンダーの影響を受けたかのようなローズ・ピアノによるイントロがファンキーな「Magneto And Titanium Man」。後にワンダーとのデュエットも流行りました。Aラスはブルーズ・ロック調の「Letting Go」。この曲のギター・リフは格好いいですね。ホーン・セクションもグッド!シングル・カットもされました。邦題は「ワインカラーの少女」!

B面トップはアルバム・タイトル曲のリプライズ。こういうリプライズがあるだけで、なんとなくトータル・アルバムかな?って思ってしまう風潮がありましたね。

ウィングスのいい所は、ポールだけでなく他のメンバーもヴォーカルをとって、バンドとして一体感を出しているところだと思います。まずは、ポール作ながら、レインのヴォーカルによる「Spirit of Ancient Egypt」。どことなくサイケな雰囲気の曲ですね。そして、ギターのマッカロック自作ナンバーで彼のヴォーカルによる、これまたブルーズ・ロック「Medicine Jar」。このアルバムの中では、かなり好きな部類の曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=kTDGcNHTyks

R&B調の「Call Me Back Again」も異彩を放つ名曲。ニュー・オーリンズで録音したのも頷ける、パワフルなナンバー。アルバム・クレジットでは、どの曲に参加しているのか詳しくはわからないのですが、ニュー・オーリンズの顔役アラン・トゥーサンも参加しています。この曲のホーン・アレンジなんかは、間違いなく彼だと思ってます。冒頭のウルフマン・ジャックみたいな喋りから、イントロが始まる時の瞬間が印象的な「Listen to What the Man Said」(邦題:「あの娘におせっかい」)。このアルバムからの先行シングル・カットでした。いかにもポールらしいポップで、聴きやすいメロディが最高でした。ギターには、デイヴ・メイソンも参加。
http://www.youtube.com/watch?v=OF2wmiE3yzo&feature=related

アルバム・ラス前の「Treat Her Gently / Lonely Old People」は、ポールのソング・ライターとしての能力を、まざまざと見せつけられます。ビートルズの曲として発表しても十分に耐えられる曲だと思います。ウェスト・コースト系のサウンドの雰囲気もありますね。そして、アルバムの幕はインスト・ナンバー「Crossroads Theme」。TV番組のテーマ曲で、エンディングを彩りますが、ある意味、お遊びかも知れません。

これ以前のビートルズ解散後のポールのアルバムは、ある意味(いい意味でも)、イモっぽさを感じておりましたが、このアルバムで、ようやくポップ・スターとしてのポールに立ち直ったように感じます。70年代を代表するポップ・ロック・アルバムとして燦然と輝く名作だと思います。

ビリヤードの玉を、金星と火星に見立てたヒプノシスのジャケットも、シンプルかつ含蓄があり、このアルバムに収録された曲に負けない魅力がありました。