前回のビートルズ「Rubber Soul」を受け継ぐカタチでこのアルバムを持って参りました。「Rubber Soul」を聴いて、コンサート・ツアーに疲れて半ば神経衰弱になっていたブライアン・ウィルソンは、その創作意欲を掻き立てられ、他のメンバーをほとんど参加させずに制作されたこのアルバム。そしてこのアルバムに刺激を受けたビートルズのメンバーが「Revolver」を制作するという、すばらしい芸術の循環を創りあげた記念すべき作品。

イメージ 1

Pet Sounds / The Beach Boys

66年発表
当ブログ人気投票 第6位
英米の評論家投票 第8位(87年)、第12位(77年)

実は、私、ビーチ・ボーイズのアルバムで全編聴いたことあるのはこの1枚だけで、あとはシングル・ヒットをポツポツと知っている程度。後は、04年にブライアン・ウィルソン名義で発表された幻のアルバム「Smile」位でありまして、ビーチ・ボーイズを語る資格は全くないのですが、このアルバムは素晴らしいアルバムだと思いますし、大好きなアルバムです。

ところが、このアルバム、発売された当初は、カリフォルニアの太陽、サーフィン、車、女の子といったビーチ・ボーイズのウリが全く感じられず、ホルン等当時のビーチ・ボーイズでは全く考えられなかった楽器や、効果音を入れており、当時のファンからは全く理解されなかったようです。確かに、これはビーチ・ボーイズのアルバムというより、ウィルソンのソロ・アルバムとして捉えた方が良かったのかも知れません。この後に発売されたベスト・アルバムにセールス的に負けてしまったという位ですから。ただ、UKでは受け容れられ、USでも徐々に理解者が増えていき、いまでは押しも押されぬビーチ・ボーイズの代表作、いやロック史上の名作として認知されるに至っております。めでたし、めでたし。

1曲を除いて、全体的にモワーッとした雰囲気があり、音的にも、特にドラム等の打楽器の音が、スペクター・サウンドを感じさせる仕上がり。そんな心地良いサウンドに、希代のメロディー・メーカーであるウィルソンの素晴らしい曲とコーラスが乗っかれば、もう夢見心地。山下達郎の音にも大きな影響を与えていると思います。今聴くと、非常にポップな感じがするのですが、どうしてこれが変わった音楽と受け取られたのか不思議でなりません。

オープニングの「Wouldnt It Be Nice」(素敵じゃないか)はこのアルバムに中にあっては、アップ・テンポで結構リズムもタイトなご機嫌ナンバー。「You Still Believe in Me」は教会音楽のような美しい曲。ある意味このアルバムを一番象徴している曲かも知れません。「Dont Talk」ウィルソンの高音が夢の世界に誘います。「Im Waiting for the Day」は、UKのビート系グループの曲の雰囲気もあります。インスト・ナンバー「Lets Go Away For A While」は後にシングル「Good Vibration」のB面になったそうです。

B面に入ると、私のビーチ・ボーイズの5曲、いや3曲に必ず入れたくなる名曲中の名曲「God Only Knows」(神のみぞ知る)。「♪I may not always love you~」と(当時の)ラヴ・ソングには有り得ねぇ歌詞から始まります。オープニングのフレンチ・ホルンや(たぶん)ハープシコードの音がグッときますねぇ。中間部は中期ビートルズを思い起こさせるハーモニーが素晴らしい。いや中期ビートルズにパクられたと言った方が正確かな?

「I Know Theres an Answer」はサビのメロディが素晴らしい。「Here Today」もタイトなリズムに、素晴らしいメロディを息継ぎなしで歌い込む名曲。「I Just Wasnt Made for These Times」も構成力を見せつけた力作。アルバム・タイトル曲「Pet Sounds」はインスト・ナンバー。マイク・ラヴはウィルソンにこのアルバムを聴かされた時、「犬が聞く音楽か?」とのたまったそうです。ラストの「Caroline No」もこのアルバムのハイライト。この曲のおかげで、キャロラインって女の人は髪が長いものだと思ってしまいます。それはさておき名曲です。

たらればは言ってもしょうがないのですが、もし、キャピトル・レコードにジョージ・マーティンのような人がいたら。もし、ビーチ・ボーイズにウィルソンに匹敵するソング・ライターがもう一人いたら。一時、音楽シーンから離れていたウィルソンの事を思うと、このアルバムを聴くたび、そんな事を思ってしまいます。

では、「God Only Knows」です。