香港駐在中に、自分の生理体験は重いものなのだと気づいたきっかけは、

スタッフに連れて行ってもらった漢方医局のカウンセリングだった。

 

香港では、漢方治療が盛んで、きちんとした病院のような施設が町のいろんなところに

存在している。

 

予約して、カウンセリングをしてもらい、処方箋を書いてもらって、当日調合して処方してもらう。

カウンセリングは、広東語だったので、最初はスタッフについてきてもらった。

 

脈を診てもらって、舌を見せて、それから口頭でいくつか質問をされる。

 

私の場合は、生理前の1週間の気持ちの落ち込みや不安定がひどい。(これをPMSと言う)

生理直前は、全身がむくんで、熱っぽくなり、自分そのものがニキビになったみたいな感じを味わう。

熱っぽくて、鬱々とするので、夜もなかなか寝付けない。

生理1日目は腹痛と大量出血で、立ち上がれない、トイレから出られない、起き上がれない。

2日目は大量出血のみで、貧血になる。

生理が終わると、今度は排卵痛がある。生理のときとは違う痛みで、地味に辛い。

 

1日講師として立ちっぱなしの仕事をすることがあるので、

この日が1日目だと、痛くなる前から痛み止めを飲み、漏れないようにオムツのようなナプキンをして、

「最後までやれますように・・・」と神頼みをする。

神頼み以外に何がやれるのか、誰も教えてはくれなかった。

そもそも相談もしていなかった。

 

この体験は、女性みんなが同じだと思っていたので、

「生理ごときで、仕事ができないなんて言ってはいけない」と心から思っていた。

 

そんな1日目も辛いが、私が一番悩んでいたのはPMSだった。

コーチングや部下とのやりとりなど、人と関わることが仕事の中心である私にとって、

「気分が落ち込む」「些細なことで傷ついてしまう」という状況は、もっとも避けたいもの。

 

そんな悩みを打ち明けて、優しいスタッフが漢方医局まで連れてきてくれたのだった。

香港は、性や生理についての会話が、日本よりもオープンだ。

 

先生は、生理の周期、経血の期間、経血の量、その他私の症状を聞いてくれる。

 

私が無自覚だったのは、経血の量だった。

「どのくらい?」と聞かれて、「え?」となった。

 

「何ミリリットル?」「え?はかったことないです」

「ナプキンにどのくらい血が出る?」「このくらい?(手で表す)」

「1日に何回かえる?」「え?5~6回?」

「多いね」

 

あ、多いんだ。この時に初めて出血量の多さを認識した。

 

漢方的な解説を受けて、処方してもらった漢方薬を飲み始めた。

「おいしい~」

 

日本の漢方薬は、とても飲めたものではないけれど、自分の状態に合わせて

調合してもらった、フレッシュな漢方薬は、エスプレッソみたいで美味しい。

(粉状ではなく、液状パックでもらって、湯煎して飲む)

 

漢方薬での体質改善を願いつつ、数カ月たったころ、

卵巣嚢腫が肥大化していることが分かった。

 

・・・夜中に腹痛で目が覚める。

あれ?生理じゃないのに生理痛かな? とりあえず温めながら寝ようとする。

痛くて眠れない。

痛み止めを飲む。それでも痛い。

 

朝まで眠れない痛みが続いて、血の気も引いてきた。次の日に病院へ行った。

「盲腸だろうか」

 

その足で全身CTスキャンを受け、医者から「卵巣の腫瘍だね」と伝えられる。

「手術しますか?」

 

香港で、外科手術・・・怖すぎる。「いえ、日本に帰ってやります」

 

 

どうやら、私の長年の辛い生理体験は、これが原因だったようだ。

特に出産経験のない女性の、4人に1人は抱えているのが子宮筋腫や卵巣嚢腫。

抱えていても症状は分かりにくいが、たいてい生理の症状が重くなる。

 

日本に戻って、職場で話していたら、「私も手術受けたよ」「私も持ってるよ」と

言われる女性先輩方の多いこと多いこと。

 

いっぽうでは、「なにそれ?」という女性もいる。

 

生理があるのは女性共通だが、その体験は、人それぞれ。

トイレの中まで覗きあうわけでもないし、自分の生理体験がどんなものなのか、

自分でも分からないものなのだ。

 

辛いときは、我慢せずに、誰かに相談できるといい。

大人になると、保健室もない。婦人科はいつだって大行列なので、

気軽に相談できる相手がいない。

私には、母も姉もいたけれど、わざわざ相談するのも恥ずかしい感じがするし、

むこうも聞いてもこない。

 

なんたって、私が卵巣嚢腫の痛みで、日本で病院の救急に駆け込んだら、

女医に「これくらいの痛みで救急にくるな」とひどい怖い顔で叱りつけられ。

その時点で1週間ろくに寝られずに、必死で香港から帰国した私は、

病院の廊下で崩れ落ちて泣いた。

 

女性の痛みを、同じ女性が必ずしも理解してくれるとは、限らない。

 

一週間後に、別の総合病院に知り合いの紹介で診てもらった男性の医師は、

「すぐに手術しよう」とその場で予約して執刀してくれた。

 

医者もいろいろだ。

 

ということで、生理に悩む女性の皆さんには、

生理の相談ができる場所がないこと。

知らず知らずのうちに、辛い体験を我慢しすぎる環境にあること。

を知っておいてほしい。

 

無理をしすぎないで。それはあなたのせいではない。

立ち上がれない自分を責めないで。何がやれるかを、一緒に考えよう。

 

その取り組みのひとつが、私の月経カップチャレンジだ。

 

(つづく)