不登校になり

ADHDと診断された中学生に

BBITで介入を試みた1例

 

 

後藤保彦 B.App.Sc.,B.C.Sc.,BBIT認定療法士

510バランスカイロプラクティック自由が丘

 

 

要旨

本症例は、ADHD(注意欠陥多動性障害)と診断された不登校の中学1年生に対して、BBIT(脳ベースインテグレーション療法)を用いて介入を行ったものである。対象児は過去の担任指導により心理的負担を受け不登校となった経緯があり、精神科でADHD(不注意優勢)と診断されている。既往歴として焦点性てんかんがあり薬物治療(ビムパット)を続けているため、TMS(経頭蓋磁気刺激)やtDCS(経頭蓋直流電気刺激療法)の適用が難しい状況であった。本症例では、BBITを用いて右脳機能の活性化を試みた結果、不登校の解消および学校生活への復帰が見られた。

 

 

 

序論

不登校児の57%が広汎性発達障害やADHD(注意欠陥多動性障害)などの神経発達症を有していて、87%が不登校になって初めて神経発達症と診断された、との報告がある。1)対象児は、校内での行動を小学5年時担任から執拗に責められ2)不登校になった経緯があり、その後精神科でADHD(不注意優勢)と診断された。

本症例は、非侵襲的脳刺激法(TMSおよびtDCS)が適用困難な不登校児に対し、BBITを用いたアプローチの有効性を検討したものである。

 

 

 

 

症例記述

 

1. クライアントの説明

12歳女性(中学校1年生)、不登校

 

 

2. ケース履歴(問診内容)

・不登校の経緯

2023年5月(小学校6年生)から、不登校になった。2024年4月からは中学生になり、公立ではなくフリースクール(週5日登校)を選んだが2日目に通えなくなった。

不登校の原因は、小学校5年生時(2022年)の担任の指導が心理的負担になり1年を過ごしたこと。思い出して辛くなり自傷行為が6年生になってから始まり(2023年4月)、5月から不登校になった。2023年10月に精神科を受診し、持続性適応障害の診断を受け、さらに2023年11月にADHD(不注意優勢)の診断を受けた。

 

・現在の状況(初診時:2024年4月)

精神科で認知行動療法を2週に1回のペースで受けている。また抑肝散陳皮半夏(漢方)の服薬により、イライラして感情的になることが減ってきて自傷行為はしないでいられている。既往の焦点性てんかんに対し、抗てんかん薬(ビムパット)を継続服用中。1日中PCやスマートフォンを見ており、その際にチック(音声・運動)が出ている。

 

・両親の希望

スクリーンタイムを減らす必要性を、理解してほしい。引きこもりになってしまうのが心配で、やる気がないように見えるため意欲的になってほしい。ADHDを改善し以前(小学4年生当時)のように意欲的になり登校できるようになってほしい。

 

・出産

安産

 

・成長マイルストーンについて

問題なし

 

 

 

3. BBITアセスメント結果

・左右脳バランスチェック表

  左脳低下33 右脳低下36

 

・姿勢

  立位において、股関節・膝関節が軽度屈曲位で

  胸部屈曲と頚部伸展傾向。

  日常で、座位が続いた後に立ち上がる時に尾骨に痛みを

  誘発するとの訴えがあり、1日中PCを見ている時は

  イスの上で体育座りしているとのこと。

  頭部右傾斜

 

・脳神経

  表情筋Weakness 右ほうれい線

  対光反射 左5秒に対して右は収縮せず(瞳孔拡張)

  眼球運動 右のパスート活動性低下と

       サッカードのオーバーシュート

       左は顔も一緒に動く

  軟口蓋 右

  嗅覚・聴覚 特に問題は見られない

 

・固有感覚、前庭、小脳

  ロンバーグテスト 左に揺れる

  閉眼片足立ち 左軸16秒<右軸60秒

  回内・回外 連続で甲をたたく様子が左右ともあるが、

        左手の方がより多く見られる

  指鼻 左指使用時に1㎝程度の誤差

  表在感覚 左手左脚・右脚の位置精度の低下

  他動VOR 特に問題は見られない

 

・原始反射(数字はGradeで、大きいほど程度が強い)

  ATNR 左向き5>右向き4

  ルーティング 左右とも3

  パーマー 左手1

  バビンスキー 左足2>右足1

 

・体幹アセスメント

  ブリッジ レベル2は65秒、レベル3は左右とも0秒

  スーパーマン 右手左足35秒、左手右足65秒、

         と差が見られた(四肢は60秒)

  腹筋 10回/分

  腕立て伏せ 1回、膝つきで20回

  サイドプランク 左右とも30秒

  プランク 膝つきで60秒

 

・ドミナントプロファイル

  目・耳:左利き

  手・足:右利き

 

・カイロプラクティック評価

  上部胸椎および上部頚椎の左側関節機能制限

  (T4LP、C2LP)

 

 

 

4. 発育発達検査等の結果

2023年11月24日に、精神科でPARS-TRとコナーズ3を行った。

結果は、ADHDの可能性が本人の回答で確率87%・母親の回答で確率91%だった。ASDの可能性は低いと言われた。

 

 

 

5. BBIT提供計画

BBITアセスメントにより、左右脳バランスに偏りがあることが示され、特に右脳の機能低下に起因する問題が浮き彫りとなった。これを踏まえ、原始反射統合エクササイズ、体幹強化エクササイズ、視運動および前庭機能刺激、嗅覚および触覚・音・光刺激を組み合わせ、右脳活性化を目的として以下に示す感覚統合運動プログラムの実施を計画した。

加えて、来店時には胸椎4番と頚椎2番の左側の関節に対して、カイロプラクティックアジャストメントを実施した。

栄養・環境面は、両親に対してオンラインで説明し、以降はご家庭にお任せした。

 

期間:2024年4月23日から2024年8月18日(約4カ月間)

頻度:週5日(来店2日、家庭3日)

 

具体的な感覚統合運動プログラムは、省略する。

 

 

 

6. 期待される結果

BBITを通じて、以下の効果が期待される:

 

・右脳の活性化

  感覚統合機能および固有受容感覚の改善により、

  空間認識力や体幹の安定性が向上する。

  不注意症状の緩和、および日常生活動作の効率化。

  左右脳のつながりが強化され、原始反射が統合される。

・不登校の改善

  学校に対する心理的負担の軽減や意欲の向上。

  フリースクールや公立学校への段階的な復帰が

  実現する。

・チック症状の軽減

  感覚刺激および右脳の抑制機能により、

  チックの頻度が減少する。

・学習意欲および集中力の向上

  認知機能の向上および体幹の安定性向上に伴い、

  学業への取り組みが積極的になる。

・親子関係の親密さ向上

  親によるケアやサポートの実践を通じて、

  家庭内コミュニケーションの親密さが増す。

・身体機能および姿勢の改善

  原始反射統合エクササイズや体幹トレーニングにより、

  姿勢の安定性や身体の柔軟性が向上する。

 

最終的に、対象児が持つ本来の明るさや意欲を取り戻し、自発的な活動および社会的交流が促進されることを期待する。

 

 

 

7. 実際の結果

明るさを取り戻し意欲的になり、フリースクールから公立中学校への転校と登校再開が確認できた。また姿勢やチック症状の改善が見られた。

ADHDを改善できたかどうかは、発達検査を受けていないため不明。

 

以下に、経過と変化を示す。

(時系列での経過)

初回(4月23日)に話していた尾骨の痛みは、いつの頃からか言わなくなった。

 

6月7日:フリースクールは午前だけの予定だったが、早退せずに1日残るという理由で来店を延期。

 

6月19日:母親から「そういえばチックは来店するようになってから出なくなっている」と報告を受けた。初回アセスメント時に見られたごにょごにょした独り言は、出ない。

 

7月5日:フリースクールを辞めて、公立中学に戻りたい(部活をやりたい)という報告を受ける。

 

7月17日:父親と来店。まだ不注意があるとのこと(薬の飲み忘れや犬の世話を忘れる)。

 

7月19日:2学期からは公立中学に通うことになったと報告を受ける。夏休み中に、不登校だった小6の算数をやるため、塾に通って備えることに。

 

8月9日:小6の算数が終わり、次回からは中1の数学に取り掛かるとのこと。

 

8月9日:(再アセスメント時の感想)

継続して来店しており、途中からよく話しよく笑うようになり持ち前の明るさを発揮している。

アセスメント自体は2回目で慣れもあるのか、スムーズに進む。ただし疲れやすさはあり、体幹の評価時には休憩はさみながらになる。初回アセスメント時の結果(何回/何秒できたという情報)を伝えると、それを超えようとする意欲が見られた。

 

11月1日のメールを一部抜粋

「2学期からは、公立中学へ転校した。

時々休む、早退、遅刻もあるが、今のところ楽しく通えている。

ほぼ1年間学校生活を送れなかったため、急に勉強が難しくなり悩むところもある様。

とはいえ先日は2泊3日の移動教室にも行けて、とっっっっても嬉しかった(⌒▽⌒)」

 

 

 

再アセスメントの結果

・姿勢

  立位において、股関節・膝関節が軽度屈曲位で胸部屈曲と頚部伸展傾向の解消

  頭部右傾斜

 

・脳神経

  表情筋Weakness 右ほうれい線

  対光反射 左5秒に対して右は収縮せず(瞳孔拡張)

  眼球運動 特に問題は見られない

  軟口蓋  特に問題は見られない

  嗅覚・聴覚 特に問題は見られない

 

・固有感覚、前庭、小脳

  ロンバーグテスト 左に揺れる

  閉眼片足立ち 左軸60秒=右軸60秒

  回内・回外 特に問題は見られない

       (甲を連続でたたくことはなくなった)

  指鼻 特に問題は見られない

  表在感覚 左手左脚・右手右脚の位置精度の低下

  他動VOR 特に問題は見られない

 

・原始反射(数字はGradeで、大きいほど程度が強い)

  ATNR -(左向き0=右向き0)

  ルーティング 左2>右1

  パーマー -

  バビンスキー 左足1

 

・体幹アセスメント

  ブリッジ レベル4 左右とも60秒

  スーパーマン 右手左足60秒、左手右足60秒と差が消失

  腹筋 28回/分

  腕立て伏せ 3回、膝つきで21回

  サイドプランク 左右とも80秒

  プランク 膝つきで60秒

 

 

 

・脳側性インデックス(まとめ) 

 初回と再アセスメント時の変化

 

 

 

考察

本症例において、BBITによる右脳機能の活性化により、特に原始反射統合やと身体バランスの改善が見られ、不登校や意欲低下の解消に寄与したと考えられる。

TMSやtDCSといった非侵襲的脳刺激法が適用困難な患者においても、安全かつ効果的な代替手段としてBBITは有用である可能性が示唆された。

今後の課題としては、他の不登校児への適用や、長期的な効果検証の必要性がある。

 

 

 

結論

BBITは、ADHD症状を背景とする不登校児への新たな介入法としての可能性を持つ。本症例では、不登校の解消および学校生活への復帰が実現された。この結果は、有効な代替療法としてのBBITの適用性を支持するものであり、さらなる症例報告および研究の蓄積が求められる。

 

 

 

文献

1) 脳と発達/49 巻 (2017) 4 号 不登校と発達障害: 不登校児の背景と転帰に関する検討

鈴木 菜生, 岡山 亜貴恵, 大日向 純子, 佐々木 彰, 松本 直也, 黒田 真実, 荒木 章子, 高橋 悟, 東 寛

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/49/4/49_255/_article/-char/ja

 

2)YouTube大田区議会チャンネル犬伏秀一委員の質疑

https://www.youtube.com/watch?v=_sjIbegIciU

 6:30~

 

3)Robert Melillo Persistent Childhood Primitive Reflex Reduction Effects on Cognitive, Sensorimotor, and Academic Performance in ADHD  Front. Public Health, 17 November 2020 Sec. Children and Health

 

4)Melillo, R. (2016). Persistent primitive reflexes and childhood neurobehavioral disorders. In G. Leisman & J. Merrick (Eds.), Neuroplasticity in learning and rehabilitation (pp. 65–99). Nova Biomedical Books.

 

5)Gerry Leisman Frontiers in Neuroanatomy – Front and center: Maturational dysregulation of frontal lobe functional neuroanatomic connections in attention deficit hyperactivity disorder.” Frontiers in Neuroanatomy 16 (2022).