あれから何年 | Sea Breeze Season8

あれから何年


梅雨明け前のある日、

「ヤッホー!おにいさん!また来たよ~!」

売店にいるオレに女の子が声をかけてきた。


オレは1年ぶりに見る懐かしい顔に、

「おぅ、いらっしゃい!あとで行くから適当に空いてる席で待っててくれ。」

と言った。




この数分前。

海に向かう信号を二人の女の子が歩いていた。

道路を渡りビーチに出る。

海の家の前に立って片方の女の子が、

「ここだよ。」

と言った。

バイトの「いらっしゃいませ!」の言葉に軽く会釈をして、そのまま海の家に入って行った。

「そんなに勝手に入っていっちゃって大丈夫なの?」

ともう一人の女の子が聞いている。

「大丈夫大丈夫、あたしここのおにいさん知っているから。今日もいると思うよ。」

「思うって、連絡してなくてホントに大丈夫なの?」

「連絡先知らないから。ほら、売店にいるブルーのTシャツを着てる人だよ。やっぱりいた。」

そう言って売店に向かって歩いて行った。

そして、売店にいるオレに向かって、

「ヤッホー!おにいさん!また来たよ~!」

と言った。



彼女たちの席に行くと、一緒に来た女の子がそんなことを話してくれた。


この女の子、

このブログに何度か登場しているビール好きのねぇさんだ。

今年もこのねぇさんがやって来た。

オレたちはそこでしばらく話をした。

「ねぇさん、相変わらず黒いなぁ。まだ梅雨も明けてないのにどこで焼いてくるんだ?」

「これ?これは通勤焼け。」

「なにが通勤焼けだよ。ねぇさんビキニで通勤してるのか?」

「そうなの。ビキニで通勤してるの。」

「そんなの誰も見たくないってよ。」

彼女は笑っている。

オレは、友達のほうを見ながら、

「こっちのねぇさんは初めてだよね?」

と聞いた。

「おもしろいおにいさんがいるから一緒に行こうって誘われて。」

と言った。

オレは、

「誰がおもしろいおにいさんなんだよ!ねぇさんのほうがよっぽどおもしろいよ。」

とねぇさんを見た。

友達は不思議そうにこっちを見ている。

ねぇさんが、

「なに?」

と友達を見た。

「さっきから思ってたんだけど、久しぶりとか元気だった?とかじゃないの?だって一年ぶりなんでしょ?」

と言った。

オレは、

「ないなぁ。一年ぶりでもついこの前会ったばかりみたいに、また来たよ~!って来るから、こっちも、おう!の一言で済ませちゃってる。」

「そうだね。」

とねぇさん。

「だけどねぇさんがここに遊びに来るようになって長いけど、色白のねぇさん見たことないよ。」

「えーっ!そんなこと・・・」

その先が出てこない。

ここに来るときはいつも日焼けしてるからだ。

「ねぇさんがここに来てからどのくらいになる?」


「う~ん、最初は20代の前半だったから、もう10年越えるかなぁ。」


初めに女の子と書いたのは、今でも当時のイメージのままだからだ。


そんな流れから昔話になり、一緒に来た友達は自然とその話を聞くことになった。


「オレが覚えている一番最初の会話は、何度かビールを買いに来たねぇさんに、また飲むのか?よく飲むねぇ。みたいな事を言った気がするんだけど。」

「そうだよ。あたしは覚えてるよ。おにいさん他のお客さんとは話しているのに、あたしにはなかなか話しかけてくれなかったんだよ。で、何度目かで話しかけてくれたんだよ。なんで?」

「ただの酔っぱらいだと思っていたんじゃないかな。」

「そうなの?ヒドイなぁ。」

オレは本当に覚えていなかった。

「でも、そのひと言がきっかけで話すようになったんだよな。」

「そうだね。それからはあたしがビールを買いに行くたびに話してたよね。」

「だけど、何を話したか全然覚えてないんだよ。」

「あたしも。よっぽどくだらない話をしてたんだろうね。」

と笑った。

それを聞いていた友達が、

「そんなに長いのに名前も連絡先も知らないの?」

と聞いた。

「なんにも知らないよ。知っているのはお互い社会人で、休みが週末ってことくらいかな。このねぇさんがどこの誰かなんてことも知らない。」

「あたしも同じ。おにいさんが何者なのか知らないよ。知っているのは週末になると海の家のおにいさんをしているってことだけ。」

「それだけ?」

「うん、それだけ。夏になればねぇさんが遊びに来るだろうと思っているから。」

「あたしもにここに来ればおにいさんがいると思っているし。あっ、お盆休みだけは確認してたね。平日でも来れるから。」

「そうだな。」

「なんで何も聞かないの?」

「なんでだろう?名前を知らなくてもねぇさんとおにいさんていうのが普通になってるし、夏になれば会えるし。」

「あたしも。おにいさんからは夏しか想像できない。って言うか夏が近づくとおにいさんに合いに行こうって思ってるから。」

「ただ毎年会ってるんだけど、オレねぇさんの私服って記憶にないんだよ。ビキニ姿がほとんどで、私服っていうと来たときと帰るときにちょこっと顔を出すときだけだから。ほとんど裸しか見てないようなもんだな。」

「ちょっとぉ、誤解されるような言い方しないでよ。ちゃんとビキニ着けてるでしょ!あたしだっておにいさんのボロいTシャツ姿しか知らないんだからね。」

「ボロいって言うな。これは潮風で色褪せたんだよ。味があると言ってくれよ。」

「だけど、おにいさん変わんないよね。あの頃のまんまじゃん。あの頃から10歳は年とってるんだよ。」

「ねぇさんだってあの頃と変わってねえよ。毎年一目見ればすぐにわかるもん。」

そんなやり取りを聞いていた友達が、

「なんかいいね。そういうのって。」

と言った。

「じゃぁ、取り敢えず10周年ってことで1杯おごるよ。」

「取り敢えず10周年?相変わらず大雑把だねぇ。」

「ねぇさんだって覚えてないだろ?それにただで飲めることのほうが大事なんだよな。」

「まあね。」


そんなこんなで話も終わり、オレは売店に戻った。

ねぇさんたちもビーチに出て行った。

相変わらずビールを飲んで、いつもと同じように過ごしている。

そして閉店近くになると、

「じゃあね、おにいさん。」

「おう、またな。」

といつものように別れた。


最初に女の子と書いたのは、出会った頃と全然変わっていないからだ。

あれから何年もの時が過ぎた。

何年たっても変わらない彼女が嬉しかった。