短い爪の続きっぽいやつです、、、!

読んでない方はぜひぜひ〜









その時の私は、幸せの絶頂だった。

世界で一番好きな人と愛を確かめ合っていたのだ。


ひぃちゃんが好き。

彼女の細い指が私を掻き乱せば、快感で頭がおかしくなりそうなほどだった。



森田「理佐さん、気持ちいい?」



ハッとした。

この一言で全てなんとなく目が覚めたような気がする。とは言え、前々から分かりきっていたことなのだけれど。ひぃちゃんはきっと、私のことを本気で愛していない。


たぶん理佐さんのこともそうだと思う。ひぃちゃんの中で私と理佐さんはニアリーイコールな存在なんだろう。


そんな勝手な推測で、少しでも安堵してしまう自分が嫌になる。


何が目的でこんなことをしているのかなんて知りたくない。

上辺だけでも愛してもらえてるだけ、良いじゃないか。


そう思っても虚しいものは虚しい。私はこんなに好きなのになぁ。


たった一言、されど一言。ひぃちゃんの失言によって、私の心は凍りついてしまったようだった。



森田「あ、ごめん、保乃ちゃん」



ようやく気がついたようで、ひぃちゃんは軽く謝罪を済ませて行為を再開しようとする。愛を感じないと言ったらあれだけれど、どこかにひぃちゃんを許せない自分がいるみたいで、そいつと夢見心地な気持ちとが対峙し合っていた。



田村「…ちょっと水飲んでくる」



拒むように言うと、ひぃちゃんの表情がみるみるうちに廃れていくのがわかった。

彼女の返事を待たずにキッチンへと足を運ぶ。素足に床の冷たさが伝わって、どんどん現実に引き戻されていく感覚になった。


あかんなぁ、もう大人やのに。割り切らんといけへんのに。

わかっているのに無力だ。恋心って厄介。


コップに水を汲む。

気づけば溢れてしまっていた。

キャパシティが悪いのか、レバーを止めなかった私が悪いのかはわからない。好きだったら何でも許容してしまうのだろうか。なんだか自分が恐ろしい。


雑っぽい愛され方でも満たされていたのは、私が単純だったから?


溢れた水を均すようにシンクへと流す。コップの中の生き残りを呑み込むと、冷えた水に喉が刺激される。水道管も寒さにやられているのだろう。


何度も似たような機会はあったのに、そんなことには今初めて気がついた。やはり意識次第なんだな、と思う。


ふぅ、と息を吐く。頭を冷やすってこんな感じか。

少し冷静になれた気がする。あのままひぃちゃんに流されていたら、どうなっていたんだろう。別にどうってことは無いか。あやふやなまま関係が進むだけ。


そんなことを思っていると、ふと背中に温度を感じた。

そっと後ろから抱きしめられて、私は彼女の腕の中にいた。


横からひょこっと顔を出すひぃちゃん。身長からして、私の肩に顔を乗せるのを諦めたんだろう。かわええなぁ。



森田「ねぇ、保乃ちゃん」



大好きな声で名前を呼ばれると、どうしても胸がときめいてしまう。やっぱりズルい。

これが自分だけの特権じゃないなんて、嫌だなぁ。

そんな乙女心を躍らせて返事を考えるのが、一番楽しかったりする。



田村「んー?」


森田「さっきのこと、怒ってる?」


田村「別に怒ってへんよ」


森田「ほんと?」


田村「うん、ほんと」


森田「でも悪いことしちゃったよね、ごめんなさい」


田村「大丈夫やって」



どこか空返事のようになってしまうのはどうしてだろう。

疑心暗鬼になってしまったようで、ひぃちゃんからの謝罪を素直に受け入れることすらできなかった。


本当はきっかけなんて、今までいくらでもあったのに。


デートをドタキャンされたり、記念日はおろか私の誕生日すら忘れるなんてこともあった。

私が重いだけなのかもしれないと、見て見ぬふりをしてきた。それなのに今、メッキが剥がれるように本心が顔を覗かせている。


本当は、私が彼女にとってその程度の存在だという事実から逃げ出したかったんだ。虚栄心に重く伸し掛るのが怖くて。


自分自身に嘘をついて、誤魔化して。そんなことをしてまでも、ひぃちゃんを好きでいたかったんだろうか。

なんだか自分に失望してしまった。


たった一人を好きでいるために、こんなに切なくなるなんて馬鹿みたいだ。それでも、彼女のことを嫌いになんてなれないのだけれど。



森田「続き、しよっか」



数秒の間を空けて小さく頷くと、ひぃちゃんはどこかホッとしたような顔で私の手を握った。


ひぃちゃんの小さい手は冷たくて、儚かった。

一体、この指で何人の女の子が快楽へと堕ちたんだろう?

あんなに細くて華奢なのに、猛獣みたいな目つきで、でも、優しさもあって……



ああ、わかった。

ただ恋をするんじゃなく、ひぃちゃんに恋をすることに意味があるんだ。

ひぃちゃんじゃなきゃ、空いた隙間は埋まらない。

ひぃちゃん以外の誰かでは、こんなに好きになれない。


百日紅と猿みたいな、一方的な関係性。でも、私は運命だと思ってる。ジンクス的なものを信じたいのはいくつになっても変わらない。



森田「保乃ちゃん、好きだよ」


田村「保乃もひぃちゃんのこと、好きやで」


森田「んふふ、照れる」


田村「ひぃちゃんから言ったくせに!笑」


森田「そうだけど、保乃ちゃん可愛いから」



こんな他愛ない会話さえ、焦らしにしか思えなくて。

ひぃちゃんのいじわる。



田村「…なぁ、早くベッド行こ?」


森田「そんなに焦らなくても、朝までずっと愛してあげる」



色気のある嘲るような笑みに、身体が勝手に反応してしまう。


好きになればなるほど辛い。

これが正当な恋じゃないなんて、そんなのわかってる。わかってるけど、好きで好きでしょうがないんだ。


もう、私の純心を好きなだけ弄んでくれればいい。

この恋でいくら傷ついても構わない。


だから今は、今だけは、彼女の蜜に溺れていたい。