日高神威(ひだか・かむい)19歳。彼のIQは85。軽度の知的障害を抱えている。作業所(就労継続支援B型)に通い、主にクッキーを焼いている。「クッキー班」は彼を含め6名。「カムイくーん!すごいね!今日もクッキー、完売だよ!」職員が大声で伝えると彼は仲間と「グータッチ」をした。これが「やったね!」のサイン。彼らが作るクッキーは好評でいつも飛ぶ様に売れる。美味しいとかなりの評判だ。確かにクッキー美味しいね。「うん、ぼく、あたまよくないけど、クッキーつくるのすきだからたのしい……」彼は訥々と喋る。月に一度は精神病院に通院。主治医は穏やかに語りかける。「やぁ、カムイ君。元気だった?何か困ってる事、あるかい?」「はい、いまはすごくたのしいです。しごともあそぶのも……」「そうか、それは良かった。」何だかんだで雑談タイム。診察後、主治医は語る。「神威君は不思議な子でしてね。小さい頃から彼を診てるんですが、何と言うのかな?天然の癒し系と言いましょうか。気付けば私の方が彼に人生相談の様な物を持ちかけてるんです。おそらく、答えに困る様なね。それでもニコニコとして彼なりに回答をしてくれるんです。そして、毎回彼とのやり取りが終わった後に思うんです。きっと、IQの高さと頭の良さって必ずしも一致しないんだろうなと。彼は実年齢よりも少し幼い。ですが、表面に現れない第6感以上の第9感があるんじゃないかって……医師の私がこんな事を言うのも何ですが。」神威はある日、作業所から帰る途中、横断歩道を渡ろうとして転んでしまった少女を見かける。急いで駆け寄ると「だいじょうぶ?ここ、いたいの?」少女は右膝から出血していた。「ぼくがなおしてあげる……」そう言うと右手を少女の膝に当て、そっと目を閉じ膝をさすった。痛さのあまり泣きじゃくっていた少女だったが、しばらくするとみるみると顔に生気が戻ってきた。「痛くない!足、痛くない!お兄ちゃん、ありがとう!」「いいえ、どういたしまして……きをつけてかえってね。」少女が「バイバイ」と手を振ると、神威も「バイバイ……」と手を振った。これが彼の持つ癒しの力。「第9感」なのだろうか。その力、神がかり。

「察する力、思いやる心。これは人智を超えた数値化も言語化も不可能な摩訶不思議な第9感だ。心優しき人だけが持つ事を許されたナインセンス。その力、備わる人は人より劣って見える。IQなどで人の賢さは測れますか?そんな物、何の役に立つのですか?」今日もあなたに幸あれ。続く。