陶芸家の工房にて。陶芸家が新作の茶碗を作っている。窯で焼き上げ、乾燥。絵付けをし完成。「ほら、出来たぞ。」弟子はその茶碗を眺め、「さすが、先生です。今回もお見事です。手に取ってもよろしいですか?」陶芸家は「コクリ」と頷く。弟子は「どこから見ても完璧だ。どこにも隙が見当たらない。」べた褒め、大絶賛だ。その時、「ガシャーンッ!」弟子はうっかり手を滑らせ茶碗を落としてしまった。「すっ、すみません!何て事を……先生の傑作を……」弟子は顔面蒼白で言葉を失くす。「丁度よかった。」陶芸家は何事もなかったかの様に床に落ちた茶碗を拾い上げる。茶碗はパックリと欠けていた。すると、陶芸家は作業台の上に三つの茶碗を並べた。「これで揃ったな。これが完品。そしてこれがお前が今落としたヤツ。で、これが金継(きんつ)ぎしたのな。直感でいい。お前はどの茶碗が好きだ?正解はねぇよ。お前が選んたのが正しいんだよ。」「えっ、この中で?ですか?こうして見ると、どれも甲乙つけがたいなぁ……さっきまでは絶対に完品がいいと思ってましたけど……欠け椀には欠け椀の良さがあるし、金継(きんつ)ぎして補修すると、趣きが変わって完品より豪華で高級に見えてくるなぁ……」「そうだろ。完品ってのは傷一つ付いてねぇから一見すると良さげに思える。だが、これじゃ面白味、表情がねぇんだ。優等生、無味無臭だな。ほぼ印象に残らない。ところが、ちょこっと、どっか欠けるとそれだけでユニークになる。それは表情が出たからだ。欠けてるって事は欠点だ。でも、そのおかげで味わい深くなる。そして、金継(きんつ)ぎしてやりゃあ、欠点だと思ってた所がとんでもなく上品に見えるから不思議なもんよ。人間だって何でも出来る人より隙があって欠点が分かりやすい人の方が魅力的に見えて、案外人気者なんじゃねぇの?」

「欠点が無い人は本当に優れているのでしょうか?魅力的で素敵なのでしょうか?そういう人って、どこか冷たく無機質であまり惹かれないのでは?近寄りがたいでしょうし。完璧に見えた人に意外な隙があって、思わぬ欠点があると、そこに人間らしさを感じませんか?だって、それが個人識別ですし、存在証明になりますから。欠点、それはその人だけに備わる長所。欠点、それはその人にとって欠かせない点。欠点、それは大量生産も限定販売も出来ない物。その人をその人たらしめる物。」欠点をある程度開示して生きるのか、隠したまま生きるのか、それは自由です。今日もあなたに幸あれ。続く。