私が勤務しているオフィスが入っているビルは屋上が庭園になっている。一般開放されており、ちょっとした都会のオアシスとして人気スポットになっている。私も業務の合間に息抜きするために利用している。隣にはカフェが併設され、コーヒーブレイクにもちょうど良い。緑を見ながら、リラックス。疲れていても、「よしっ!もうひと踏ん張りしよう」と思える。その日、私は残業だった。そのため、庭園には人は居らず、カフェもすでに閉店していた。誰も居ない静かな庭園の中をゆっくり見物しながら歩く。新鮮な木々の匂いがする。私は今、この空間を独り占めしている。大きく深呼吸。自然な風が心地よい。と、その時私は妙な物が目に入った。「空間」であるはずの場所に「裂け目」の様な物が出来ていた。まるで、壁紙がめくれたみたいだ。「何だ、これは?」私は「裂け目」を覗き込む。すると、「ベリリッ」裂け目が大きく広がる。そして物凄い勢いでその中へと吸い込まれた。驚いた事にその裂け目の向こうは空間が「グニャリ」と歪んでいた。この場合、「円空」というべきか。「直線」だったはずの庭園が円くなり、アーチ状になっていた。足下は安定感を失くし、トランポリンの上を跳ねているみたいだ。「ようこそ、円空庭園ヘ。」どこからともなく声がする。「ここはアナザーワールド(もう一つの世界)です。あなたが普段経験しているのは直線(ストレート)な世界です。それに対し、こちらは曲線(カーブ)の世界ですどうですか?見慣れたはずの風景でも視点が違うと別世界でしょう。」円を描いた庭園。それに伴い、私も重力に逆らい、斜めになりながら宙を浮いていた。「こんな事ってあるか?」私には訳が分からない。それこそ「エアーポケット」にすっぽりとはまってしまったかの様だ。「もっと面白い事になりますよ。」声の主はもったいぶってそう言った。アミューズメントパークのアトラクションならこれから起こる出来事に胸が躍るのかもしれないが、とてもそんな気分になれない。一体これから何が起こるというのか。庭園のアーチはきつくなり、完全に天と地が逆転してしまった。「どういう事だ!空を歩いてるなんて!」ジェットコースターが完全に逆さの状態で停止したのだろうか。だが、私は空にへばりついていた。頭にも血が上らない。「これじゃ、タロットカードの吊し人じゃないか。」

「何もないはずの空間に裂け目を見つけた。その向こう側はアナザーワールドになっていた。平面(フラット)な庭園が円空(まるぞら)に変化していた。それでも不自然な所はなく、秩序は保たれていた。不気味な程調和が取れていた。ふとした事で気付いてしまったストレンジワールド(奇妙な世界)アーチは反り返り、やがて、逆さまになる。いつか私たちの住む世界は全体的にこうなるというのか。一足早く近未来を先取り。この事は誰も信じない。鮮やかな白昼夢。」今日もあなたに幸あれ。続く。