人はその寿命(いのち)を悟った時や、終(つい)えた時に一際煌めきを放つと言う。CASE1→飯村貢太郎(いいむら・こうたろう)54歳職業物流会社総務部部長。飯村は数ヶ月前から体の不調を覚え、総合病院を受診した。今日は検査結果が分かる日だ。診察室に入ると、医師は「飯村さん、はっきりお伝えしますね。ここ、これ、膵臓ね。」医師はそう言ってレントゲンを見せる。「この膵臓の部分に腫瘍がいっぱい出来てます。残念ながら悪性です。かなり進行していて手術もできないのでこのままという事になります。膵臓がんのステージ4です。余命は……そうだな、長くて2ヶ月といった所でしょうか。」医師は淡々と事実を述べた。飯村は余命宣告を受けた。「そうですか……」飯村はハンマーで頭を思いっきり殴られた様な衝撃を受けた。しかし、と同時に何とも言えぬ晴れやかな気持ちになった。「全部、自分がいけないんです。自業自得ってヤツです。今まで仕事、仕事。第一に仕事、第二も仕事。家庭やプライベートなんて二の次。私の人生は仕事しかなかったんです。古臭いでしょうが、昭和生まれの男なんて多かれ少なかれそんな物だと思います。もう悔いはないです。私は今生ではそういう運命に生まれてきたんですね。」死期を受け入れた瞬間から飯村の周りは光だらけになった。こんなに煌めきに満ちていたのかと思うほど、まばゆかった。「光だ……この世には光しかなかったんだ……」CASE2→赤木将(あかぎ・たすく)58歳。職業納棺士。「納棺士」とは映画「送り人」で有名になった、ご遺体を棺に納める仕事だ。赤木はこれまで数え切れぬご遺体と向き合ってきた。その中でも特に忘れられないご遺体との出逢いがある。「あれは猛暑日の真夏でね。あるアパートの一室からひどい異臭がしてたそうだ。それで管理人が鍵を開けて入ってみたら、部屋の中で84歳のご老人が孤独死してたんだ。呼ばれてすぐに駆け付けたけど、あの時は流石にプロの俺でも『うっ!』と唸ったかな。これ、当たり前なんだけど、ご遺体を棺に納める前はちゃんと拝むんだよ。でも、あの時はいつも以上に拝んだな……そしたらさ、そのご遺体、光るんだ。金ピカに。いや、大げさじゃなくて本当に。冷房ついてなくて、おまけに部屋閉め切ってるから、部屋ん中暑いのなんのって。汗ダラダラだった。あれ、どれくらい経ってたんだろうな?腐敗が進んでてうじ虫、湧いてんだよ。そんなのも別に珍しくない。けどさ、ご遺体が光ってると、うじ虫まで光るんだな。ありゃー人間の尊厳ってヤツだ。」

「そこのみて、光り輝く。力尽きる時人は特有の煌めきを生ず。それは生から離れゆき、遊行(ゆぎょう)の旅に出る人の符号。レフ・トルストイはこう言った。『光ある内、光の中を歩め』と。光が無くなってからではもう遅い。二度と光の中は歩めない。煌めけ。煌めけ。もう長恨歌(ちょうごんか)を唄う必要はない。闇なんかないぞ。そんな物はどこにあるんだ?この世は光だった。光しかなかったのだ。死に際の煌めき。死にゆく人が放つ、貴(たっと)き哉、その煌めき。久遠(くおん)の彼方へ。」今日もあなたに幸あれ。続く。