青年は苛立っていた。訳もなく衝動が湧き上がる。カッカしていて、とてもじゃないが家でじっとはしていられない。そこで気分転換に近所にある公園まで散歩してみる事にした。公園には大きな池がある。平日の昼間という事もあり、青年の他にはほとんど人影はなかった。青年はただボーッと池を見つめる。波立っていた心をクールダウンさせるためだ。「自分でも何故こんなにイライラしているのか分からないんだ。ただ、今のこの状態は何かが違うって事だけははっきりと言える。その違和感の正体が突き止められないからずっとイライラのループにハマってる。」青年はイライラしていたが、と同時に冷静沈着でもあった。「自分の中のもう一人の自分がガンガン頭を揺らしながら問いかけるんだ。本当にこのままでいいのか?って」そこで青年は側にあった「問題提起」という名の小石を池に向かって投げた。「ポチャッ」小さな小さな波紋が出来た。そのまま消えてしまうのかと思ったが、しばらくすると最初の波紋→次の波紋→そのまた次の波紋といった具合に同心円状に外側ヘ外側へと大きくなって広がっていく。もう一度石を投げる。今度はもっと大きな石だ。するとさっきより速いスピードで波紋が広がっていく。青年は面白いと感じたが、怖さも感じた。「これって影響力そのものだよな。初めは誰かが投げかけた小さな疑問が思いの外、周りの人に共感されて本人もビックリするくらいの大きな反響を呼ぶ。小さい声って抹殺されたり黙殺されたりしやすいけど、粘り強く主張していけば、そのうち誰かの心を打つって事かな?だったら簡単に諦めない方がいいかもな。」さざ波程度のインパクトでも増幅されれば大波に匹敵するインパクトを与える事が出来るという事だ。「最初は誰も真剣に取り合ってくれなくてもさ、訴え続けていればちゃんと耳を傾けてくれる人って居るんだよ。きっと……」

「極小サイズの問題提起。軽い気持ちで投げてみる。スルーされても仕方ない。でも、そんな小さな塊を拾って受け止める人が居る。その人が問題の重要性を説得力ある言葉と文章で拡散させる。すると、共鳴する人々が追随する。波紋が波紋を呼び、いつの間にか社会を巻き込む大論争。やがて社会全体を揺り動かす端緒となる。取るに足らない小さな疑問。気付けば歴史のエポックメイキング。小さな波紋を侮ってはいけない。自分という名のスピーカーを過小評価してはならない。」今日もあなたに幸あれ。続く。