ネーデルラント(オランダ)郊外。見晴らしの良い丘の上には一つの墓標。その前で一人の人物が花を手向けている。その墓に眠るのは「フィンセント・ファン・ゴッホ」今では世界で1、2を争うほどの有名な画家。しかし、諸説はあるが、生前は226枚の作品を描き、その内売れたのはたったの7枚。誰の目にも留まらず、失意のまま自ら命を絶った。男はフィンセントに詫びている様だった。「すまない……フィンセント。僕の力及ばずで君を犬死にさせてしまったな……」語りかけているのは「ルーク・ストレン=ボッシュ」フィンセントの実力と能力を唯一人見抜いていた「埋もれた天才」を発掘する事に命を賭けた画商。歴史の表舞台には一切登場しないアナザーストーリー(もう一つの物語)があった。「今更言い訳がましいが、僕が君の事を知ったのは君がこめかみに拳銃の銃口を当てた後だったんだ。遅かったよ。あと少し早く君と出逢っていれば君を一流の画家として売り込めたのに……」ルークがフィンセントの絵を初めて見た時、まるで雷に打たれたかの様な衝撃を覚えた。「なっ、何だ、この絵は!生きている!躍動している!」この絵を描いたのは誰なのか?ネーデルラント中を探した。そして、ついに突き止めた。しかし、時すでに遅し。「フィンセント」は帰らぬ人となっていた。「僕が未熟だったんだ!こんな才能の塊が居る事に気付かなかったなんて……」ルークは自分の力を過信していたのかもしれない。「どんな天才でも見つけ出せる」と。「君は自分を売り込む術を知らなかったんだ。だから僕の様な広報官(スポークスマン)がバックアップしてあげないといけなかったのに……」ルークは激しく悔いた。「なぁ、フィンセント。例え死後評価でも全く評価されないよりはいいだろ?君の絵は100年後必ず競りで高い値が付く。誰もが欲しがる垂涎(すいぜん)の的になるぞ。君は確実にパッシー(情熱)の種を蒔いたんだ。ちょいとばかし芽が出て、実が成って刈り取るまでには時間がかかるが、待てるか?」その時、一陣の風が吹き抜けた。何という青い空だ。「ヘゼラハ!(心地よい)ヘゼラハ!(心地よい)」

「君が燃やした情熱の炎。けっして絶やさず次世代へ。不遇と言われようと、非業の死を遂げようと、ひまわりのように、糸杉のように、跳ね橋のように、星月夜のように、君の命は爛々と輝いている。キャンバスの中には君の息吹が眠ってる。プロースト!(乾杯)フィンセント。プロースト!(乾杯)ルーク。早すぎた天才と遅すぎた画商。二人の横顔に影が差す。」今日もあなたに幸あれ。続く。