航空機「カレッジ号」はアジアの空港「A」から離陸し、北米の空港「B」に向かっていた。徐々に機体は予定の高度に達し、安定したため操縦士と副操縦士は操縦を「手動操縦」から「自動操縦」に切り替えた。「さぁ、カレッジ、細かい指示は俺たちがやるから後は任せたぞ。」全幅の信頼を寄せる。「カレッジ号」は「安全」「誠実」「実直」が売りで、これまで大きな事故やトラブルなど一度も起こした事のない「優秀な」航空機だった。自分の「任務」を心得ていて、「忠実に」遂行していた。しかし、この日ばかりは様子が違った。「グラグラグラッ」機体が大きく揺れる。しかもルートからも外れ、高度もスピードもめちゃくちゃだ。「おい!どうしたカレッジ。乱気流か?不具合か?」「もう沢山だ!毎日毎日決まったルートを往復するだけ。景色を楽しむ事も遊ぶ事も許されないなんて!」「いや、しかしそれがお前さんの仕事じゃないか?」「僕だってたまには自由気ままに好きな空港に降りたいよ。そして高度もスピードも無視して飛びたいんだ。」「カレッジ、お前さんの気持ちも分からない訳じゃない。だが、君には航空機としての役目や任務がある。そんな勝手な事を許す訳にはいかない。それは職務放棄だ。君には大勢の乗客が乗っているんだぞ。彼らは一体どうするんだ?責任は取れるのか?」「うるさい!そんな事知るか!大体僕が本当に行きたい所、目指してる場所に全然辿り着けないのは人間が僕を制御してるからじゃないか!特に自動操縦はひどい。とにかく安全で無事を最優先するから、僕がちょっとでもルートを外れると無理やり、強引に僕が行きたくもない場所へ着陸させようとする。」「我々は人の命を預かってるんだ。それは当然だろう。怪我人や死者が出たら君だってお咎め無しという訳にもいかないぞ。場合によっては廃棄処分だ。」「そんな事どうでもいいよ!僕はもう誰かの言いなりになるのはゴメンだ。自分の意志で飛び回るんだ。」それまで規則正しく任務を全うしていた物の反乱。

「乗客を安全で快適な空の旅に誘うのが飛行機の役目。でも、ただの鉄の塊なんかじゃない。ちゃんとした意志を持っている。毎日毎日きちんと判で押した様に予定時刻通りに空港から空港へ定期輸送。少しのミスも遅れも事故やトラブルも許されない。操縦士、副操縦士、管制官の指示がうるさくて仕方ない。自動操縦(オートパイロット)には自由がない。僕が行きたい場所へ行くのには手動操縦(ハンドパイロット)に切り替えて、誰の指図も受けない事だ。」今日もあなたに幸あれ。続く。