ある中年男性は一人、真冬の公園で佇んでいた。「ここだ……ここから私たちの物語が始まったんだ。」感慨深そうにそう呟いた。男性は勉強が嫌いで「通信制」の高校を何とかギリギリで卒業。その後いくつかのバイトをしながら食いつないだ。今、彼の「夫人」になっているのはそのバイト先で知り合った女性だ。彼女との将来的な事を見据え、彼の学歴でも雇ってもらえるエンジニアの職に就いた。元々機械いじりが好きだった事もあって「エンジニア」という仕事の魅力にハマり、毎日楽しみながら腕を磨いた。「あの頃はまだ二人とも子供だったなぁ……新婚生活始めたって言っても、ままごとの延長みたいな物だったし……でも、あれから何年経ったんだ?子供も独立したし、お互い白髪も増えたなぁ……何だかんだで私も妻も昭和、平成、令和と3つの時代を生きてきたんだ。孫が産まれるとしたら、もう一つ時代が加わるのか?」

「街角にかりたアパートの二階、親には内緒の生活。隣の歌声で一日が始まる。一緒に暮らそう、今すぐ暮らそう。いろいろ二人で決めよう。真冬の公園で二人は決めた。求人雑誌で見つけた仕事は学歴不問のエンジニア。真面目に働いてる自分がおかしい。日が暮れて、僕は帰る、君の待つアパートヘ。初雪が降り出して、積もりそうな気配。窓の明かりの向こうに映った君の影を見上げる。結婚しようよ。この冬が過ぎて、新しい春が来るころ。この世界に認めさせたい。僕たちのことを。紙切れの上に名前を連ねる大人たちのあの儀式を夢見て憧れる無邪気な二人。記録的な雪が降り積もって窓の外は銀世界。ガラス窓に顔押しつけて、遠い春を待つ。雪の中、僕は帰る、君の待つアパートヘ。吹雪だし、先が見えない、暗いゆきみちの中を。赤い信号が点滅している。上り坂の途中。日が暮れて、僕は帰る、君の待つアパートヘ。降り積もった、雪の中、息を切らせて走った。窓の明かりの向こうに映った君の影を見上げる。」原曲辻仁成(つじ・じんせい)「僕たちの結婚」※マニアックな曲だが、カラオケには入っているらしい。今日もあなたに幸あれ。続く。