僕には「夢」があるんだ。いつも途中で投げ出してばかりいるからね。今度こそは最後までやり遂げてみたいんだ……でも、僕の見ている「夢」は「身の丈」を超えているのかなぁ……どうやっても前に進まないんだ。やれる事はやってるんだけどね……僕が一人で悶々としていると、「そいつ」はやってきた。「やぁ、こんにちは。ちょっとお邪魔するよ。今の君を見ていると先行きが明るい前途洋々じゃなくて、その反対のお先真っ暗の前途僚遠ってカンジだね?ねぇ、この部屋から富士山、見える?「うん……見えるよ。辛うじて……」「そうか、じゃあ、仮に君のこの部屋から富士山までの距離が○○○kmだとしよう。君がこの部屋から一歩も出ず、動かなかったらこの距離は変わらないよね?でもさ、君が外へ出て移動する。富士山より『離れた』方向へ行けば当然距離は遠くなる。反対に富士山に近付けば、その分だけ距離は縮まる。あっ今コイツ何当たり前の事言ってんだ?って思ったでしょ?すんごく当たり前の事なんだけど意外とそれに気付いてない人も居るんだよ。これってさ、富士山じゃなくて君があっちこっち自分の意志で動き回ったから距離が変わってるんだよね。富士山自体は一歩も動いていない。初めから同じ場所にデーンと構えている。君が自信に溢れていて、余裕たっぷりの時は富士山がうんと近く感じるはずだ。そうだな、ものの30分もあれば行けるし頂上まで登るのもチョロいって思えるかもね。だけど、全然自信が無くて何事にも怖じ気づいていたら、きっと富士山までの距離がものすごく遠く感じてとても辿り着けないって思えるし、ましてや、頂上になんて絶対登れないって尻込みするかもね。これ、大事な所だから強調するけど、山は動かないし、逃げないんだよ。君がその時の気持ちや状態で勝手に山が近くに感じたり、遠く感じたりしてるだけなんだよ。追いかけ回すと余計に逃げて遠くなる事もあるけど、山に限ってはそれはない。山はいつも同じ場所に鎮座していて、いつでも私や君が来るのを待っているんだ。山って厳しい一面もあるけど、基本は誰でもウェルカムなんだよ。」「そいつ」は飄々とした雰囲気で脱力してるんだけど、その鋭い舌鋒は的を射ていて、核心を突いていた。                                                               「おんなじ様な事は多くの人が言っているよ。夢は逃げない、逃げるのは自分自身だとかね。山は動かないし、逃げもしないよ。君がどんなにしつこく追いかけ回したって、迷惑がらずに微動だにしない。むしろ、君が来るのを今か今かと待っている。かといって、山の方から君に近付く事もない。あくまでも山はじっと君が辿り着くのを待つスタンス。焦らなくていい。時間がかかってもいい。山が消えて無くなる事はないから。もし、この山が見えなくなったとしたら、それは君が山から目を背けた時だ。君がここには山なんて無いって見切りをつけた時だ。山は変わらずそこにあるよ。目の前とは言わないけど、常に視界の隅には入っているよ。でも、君が見たくないとシャットアウトした瞬間から本当に山はあっても見えなくなるよ。」今日もあなたに幸あれ。続く。