「道を踏み外す」自分の進みたい道や、信じたい道があって、その道を間違う事無く歩いているつもりだった。しかし、何らかの原因で道を踏み外したり、その道自体が違っていた事に気付いたりする。事故の加害者になってしまった尾久田という男も、ちょっとした事で道を踏み外してしまった。尾久田はそれまで事故や交通違反とは無縁で、会社から優良ドライバーとして何度も表彰された実績のあるドライバーだった。なので、その尾久田が人身事故を起こしてしまったという事実は会社にとっても、同僚にとってもかなりの衝撃だった。「えっ!あの尾久田が……」皆、動揺を隠せなかった。尾久田は決して自分の運転技術を過信していた訳ではない。ただ、お客様に届ける荷物を丁寧に届けたい、その一心だった。だが、数日前からの様々な要因が絡まり合って、あの日の事故に繋がってしまった。「俺は何て事をしてしまったんだ……」救急車を呼び、担架で運ばれて行く二人を「どうか無事でありますように……」ただそれだけを一心不乱に祈った。だが、その祈りも虚しく、二人は息絶えてしまった。「うわー!」泣きじゃくる尾久田。ガクッと膝を落とし、そのまま崩れ落ちた。病院で杉村と対面した尾久田は「すいませんでした!申し訳ありませんでした!」と泣きながら詫びるしかなかった。杉村の顔をまともに見る事は出来なかった。地元の沖縄では、なかなか職に恵まれず、一大決心をして東京に上京。元々車の運転が好きだった尾久田は運送関係を中心に数社の面接を受け、やっと今の勤務先に決まった苦労人だった。沖縄に残してきた家族の為、必死に働いた。ほぼ、帰省する事も無く。いつかは沖縄に戻り、自分で運送会社を経営出来たら……そんな青写真も描いていた。その尾久田には「前科者」のレッテルが貼られてしまった。この日本という国は一度罪を犯してしまうと、社会復帰を果たすにはかなりハードルが高い国だ。一度、どん底に落ちてしまうと、二度と這い上がれない。尾久田は実際に罪を犯してしまったが、これが例え冤罪だとしても、その偏見は取れないのだ。一度疑われてしまうと。尾久田は罪を悔いている。どんな判決でも受け入れると決めている。あの事故によって大きく人生が変わったのは杉村だけではない。尾久田の人生もまた大きく変わってしまったのだ。今日もあなたに幸あれ。続く。