新宿信濃町観劇部日記「真実」文学座本公演初日@東京芸術劇場 | 新宿信濃町観劇部日記時々野球とラグビー

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兵庫県出身。還暦直近の年男。文学座パートナーズ倶楽部会員。

#作:フロリアン・ゼレール
#翻訳:鵜山仁
#演出:西川信廣
 
初日ならではの楽しみの一つに、舞台セットを初めて目にすることがある。この作品、まず目にするのは赤と白のシーツに覆われたベッドだ。枕に横たわるぬいぐるみ。コントラストが面白い。ダブル不倫の話だと認識して来場する観客からすると、情事の象徴であるベッドにおかれたぬいぐるみが何を暗喩しているのか、まずは考えさせる効果を生む。フレンチポップ。回転舞台。何事もおしゃれだが。情事の後に靴下を探すミシェルは、弁舌さわやかなイケメンぶりが徐々に崩れていくことを暗示する演出なのだろうか。❤️マークの下着は女性の心をくすぐったに違いないが。
 
「真実」とは。何がなんだかわからなくなる。いや、この芝居は掛け値なしに面白く、そして楽しめる。ただまだ頭の整理はできない。ロランスとポールのポーカーフェイスのせいだ笑。アリスだってホントに何を言ったかわからない。ミシェルは、さしずめ囚人のジレンマに入り込んだ。
 
ミシェルの論理破綻が笑いを呼ぶ。その身勝手な言動、嘘の上塗り。ダメダメぶり。鍛治直人の演技力に酔いしれた。
冷静だったロランスが唯一、表情を微妙に変える場面があった。スウェーデンのくだりだ。そこから動揺を隠しきれないさま。これぞプロ。浅海彩子の凄み。
良心の呵責にさいなまれ、嘘をつき続けるのが辛くなるアリス。それでもミシェルの(破綻気味の)ロジックに納得してしまう。それも含めた女性の弱さを見事に見せてくれた渋谷はるか。
そして、結局一番ワルだったのがポール(だと思うのだが)。そのワルぶりを全く見せない恐ろしさ。感情を出さずに演技することがいかに難しいか。細貝光司はそれをいとも簡単にやってのけたように見えた。
 
「真実を口に出さないことの利点から、真実を口にすることの不都合まで」とゼレールは書いている。まさに、その対比が登場人物に如実に現れる。「もし人類が今日ただ今をもってお互いに嘘をつくのをやめたら、地球上は夫婦が一組もいなくなる。ある意味で、それは文明の終わりだろう」 ゼレールがミシェルの口を借りてこう語る。いやはや。まさにそうだ。夫婦が、だけではなく、人間関係そのものが成り立たなくなるかもしれないのだ。
 
休憩なしの1時間45分。テンポがいいので(そもそも短い芝居ではあるが)長さを感じさせない。一方のボルドーチームはもうすこし尺が長いそうだ。これはこれでどうなるのか。全く別の芝居のように見える、と関係者から聞いた。初日の緊張は、客席の温度の高さで相当程度緩和された、とも。そう、我々観客も作品の一部なのだ。
 
この日は例の「麹町アカデミアワークショップ」メンバーとともに観劇。実際に我々がやってみた部分をプロがやるとこうなるのだと皆が感嘆していた。終演後に揃って楽屋で鍛治・浅海と歓談。渋谷も加わり楽しいひとときを過ごせた。
 
そうそう。最後に。細貝さん、あのフォームではバックハンドは打てません。面が上向いちゃってましたよ(笑)。
 
 
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