77(8)-ウォーキング小説-
こうして学園にむりやり連れ戻された俺は、その後、権藤に懲罰室へと連れていかれた。
そしてそこで正座をさせられると、「由梨絵の居所を言えっ」と、怒鳴りつけられた。
俺は当然のことながら、口を固く閉ざしたまま、一言も発しなかった。
すると権藤は、竹刀を持ち出してきて、俺の背中を強く叩いた。
激痛が走り、俺の全身はぴんと張り詰めた。
だがどうしようもなかった。
何しろ俺は、本当に彼女の居場所など知らなかったのだから―
こうして俺は、何も喋れないまま、かなりの時間、地獄の責め苦を味わわされることとなった。
俺はいつしか気を失っていた。
そしてその翌朝―
周囲がわさわさと騒がしくなってきたので、俺はゆっくりと目を覚ました。
昨日、F駅で俺が教師たちに連れ去られるところを目撃した周囲の人が、警察に通報していたらしく、突然学園に警察の捜索が入ったのだ。
警察は以前から、友愛学園の過剰なまでの教育指導に、目を光らせていたようだった。
やがて捜索は、懲罰室にも及ぶと、中に警察官がどやどやと入り込んできた。
それで俺は、そこで半失神状態で倒れ込んでいた所を、警察に保護され、救急車へ病院へと搬送された―
こうしてこの事件がきっかけとなって、友愛学園のスパルタ教育が社会問題となり、やがて学園は閉鎖に追い込まれた。
校長を始めとする、教師たちの中から、何人か逮捕者も出た。
幸か不幸か、俺は地獄から抜け出すことができたが、学園がなくなってしまったのだから仕方がない。
再び、俺は長野県の実家に、戻るしかなかった。
そしてそこで、再び抜け殻のような人生を、始めることとなったのだ。
だが実家に戻ってからも、俺は暫く、由梨絵のことが気になって仕方がなかった。
旧友たちの何人かに、彼女の消息を問い合わせてみたが、知っている者は誰一人いなかった。
きっと一人、無事にどこかへ逃げ延びて、幸せに暮らしているに違いない。
俺は自分自身にそう言い聞かせ、彼女のことを忘れるしか、他になかった。
いやむしろ、彼女のことを薄情な奴と、見限ることにしたのだ。
無事なら無事で、便りの一つくらい寄こせばいいのにと―
だがそれが無理なことくらい、分かってもいた。
彼女が俺の住所など、知る由もなかったから。
しかし俺は、やはりそうやって自分自身を納得させることしか、できなかったのだった。
こうしてやがて、時間の経過と共に、彼女の存在は俺の中から薄れていった―
(つづく)

