77(1) -ウォーキング小説-
痺れなのか、痛みなのか、はっきりとしない不快な感覚が、俺の後頭部から頭全体に、じんわりと広がっていった。
そしてそれは、やがて瞼の裏側にまで達し、視神経をくすぐるように刺激し始めた。
その時ようやく、俺は瞼を開いた。
すると眼前に広がったのは、暗闇に閉ざされた世界だった。
一体、何が起きたというのか?
俺には全く想像がつかなかった。
と、鉄の腐敗した匂いが、つんと鼻をついた。
どうやら空気中に、カビや埃が混じった粉塵が、無数に漂っているようだった。
それゆえに、せっかく開いた瞼も、やがて突き刺すような目の痛みに耐え切れず、閉ざさずにはいられなくなってきた。
俺はここで何をしていたんだろう?
いまだに思い出せなかった。
それで頭の中で、自分に言い聞かせた。
今はとにかく、頑張って思い出すことだ。
そうしなければ、このまま再び意識を失い、もう永遠に起き上がることはできなくなってしまうに違いないと。
それで慌てて瞬きを必死で繰り返し、涙で粉塵を洗い流した。
すると目はようやく、ここの暗さと粉混じりの空気に適応したようで、いつしか闇は幾分か薄らいでいき、おぼろげながらも周囲の状況が見え始めた。
見ると、周囲はおびただしい数の瓦礫で埋め尽くされていた。
俺は、本当に目の前の光景が現実なのかどうか確かめようと、恐る恐る手を伸ばして、その瓦礫の感触を確かめてみた。
するとその一つ一つは紛れもなく、硬く冷たいコンクリートの固まりであることが分かり、思わず両手が震え始めた。
そしてさらに遠くへ目を向けると、今度は背筋に悪寒が走った。
なんと、瓦礫と瓦礫の隙間から、ところどころ人間の手や足が飛び出していた。
それらはまるで、ごみ捨て場に捨てられた人形の手足のように、だらりと垂れ下がっていた。
まだ硬直していないところを見ると、埋もれてからそう時間は経過していないようだった。
その生々しさは、俺の中で芽生えた絶望と恐怖を、一気に極限にまで増幅させた。
俺は気づいた。
どうあがいても、もはや逃れる術のない煉獄に、俺は投げ出されたのだと。
と同時に、俺は生への執着を放棄した。
(つづく)

