岡山遺跡ものがたり-おとっちゃん(28)- | 「HEROINE」著者遥伸也のブログ ~ファンタジーな日々~

岡山遺跡ものがたり-おとっちゃん(28)-


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「ああ。漱石の小説を読んで分かったんじゃ。俺たちの中にも笹塚剛三の血が流れとる。じゃから笹塚は、俺たちと親戚みたいなもんじゃろ? きっと小説のように、誠意をもって話をすれば、きっと心が通じ合うはずじゃ」


するとそれを聞いて、小巻は呆れ顔で問い返しました。


「えっ? ほんならお兄ちゃん、まさか笹塚に会って、説得するつもりなん?」


「ああ、そうじゃ」


「たくもう。どこまでお兄ちゃんは人がええんよ? 笹塚が私らのことを、本気で親戚じゃと思うとったら、こげえな嫌がらせやこ、するわけないやん。あいつは本気で私らを潰そうと考えとるんよ。しかもあいつが漱石の原稿を手に入れたかった本当の理由は、笹塚家の祖先の過ちを世間に知られたくなかったこと……つまり、小和田家にとってお兄ちゃんが恥なのと同じように、笹塚にとっても、お兄ちゃん、いや私ら一族が恥の証明そのものなんよ。それが和解するだなんて、とうてい考えられんことよ」


小巻がそう言って諌めようとしましたが、徳太郎は聞く耳を持ちませんでした。


「いや。やってみなけりゃあ分からん。すぐに笹塚の居場所を調べてみよう」


「たく……」


小巻はそれを聞いて溜息を吐きました。

とその時―


徳太郎の胸ポケットの携帯電話が鳴り響いたので、慌てて出てみると、それは星乃花からでした。


「徳太郎さん、久しぶり。元気でした?」


「ああ、星乃花さん。その後就職活動はうまくいっとる?」


「いえ。残念ながら、苦戦してます。厳しい世の中ですね。あっ、そうそう。そんなことより徳太郎さん。今日はいい報せがあって、電話したんです」


「いい報せ?」


「ええ。というより、お願いかな? 実は私たちがホームページで公表した漱石の『おとっちゃん』が、ページが閉鎖されるまでのほんの短い時間ながら、予想していた以上に大勢の人たちに読まれていて、かなり好評だったんです。それで私たちの出版社を買収した大王グループに対して、小説を読みそびれた文学ファンや、学者などの有識者から、再び作品を公表してほしいと、要望が殺到したんです。しかし大王グループは、原稿を喪失したなどと、苦しい言い訳をしてそれを拒みました。それで不審に思った日本文学振興会の職員が、週刊新星の記者をやっていた私のことを調べ上げ、家まで訪ねて来たんです。もしかしたら、私が原稿のコピーを持っているのではないかと思っていたようです。しかし残念ながら、私は会社を追い出される時、原稿のコピーもデータファイルも、全

て取り上げられてしまいました。それで私は、振興会の人に、思い切って全てを暴露しました。徳太郎さんのことや大王グループの悪行の数々、そして笹塚剛三が裏で糸を引いていることも」


「星乃花さん、大丈夫なんか? そんなことを話してしもうて」


「ええ。文学振興会は笹塚や大王グループとはなんの利害関係もありません。漱石が書き残した幻の原稿は、日本文学界にとって貴重な財産です。だから彼らは、それを多くの人たちに広め、そして守りたい。それだけなんです。それで事情を知った振興会は、文部科学省に訴え出ることにしました。大王グループが貴重な文学的財産を、不当に所有し、隠匿していることを。しかし文部科学省は動こうとはしませんでした」


「そうか。またしても笹塚の圧力がかかったんじゃな。どこまでも汚い奴じゃ」


「ええ。ところがこれが、一大ムーブメントに繋がりました。文学振興会の人たちや、漱石の研究者の団体が、文部科学省を動かすため立ち上がったんです。彼らは都内の主要な駅の前で署名活動を始めたんです。そして今、活動は順調に進んでいます。それで私、実は振興会の方からお願いされたんです。徳太郎さんにも、署名活動に参加してもらうよう、説得して欲しいと」


「俺に?」


「そうです。主人公のおとっちゃんの子孫である徳太郎さんに、窮状を訴えてもらえれば、きっと多くの人たちが賛同してくれるだろうと、皆さん、期待されてるんです」


「そうか。そんなことが起きとったとは、全然知らなかった」


「どうです? 徳太郎さん。私からもぜひお願いします。もう一度私と一緒に、戦いませんか? 東京で」


「星乃花さんと?」


「ええ、そうです」


「よっしゃ。やろう星乃花さん。こうなったら、恥もへったくれもありゃあせん。笹塚との、これが最後の戦いじゃ。俺が大王グループや笹塚からどんなにひどい目に遭わされとるか、堂々と世間に訴えちゃる。そして原稿を取り戻す。大勢の人たちが味方についてくれれば、きっと奴に勝てる。俺はやるよ。絶対に」


(つづく)


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