みっちゃんの惑星 (56)
そしてガイランドルは宙を見上げると、思い切りジャンプし、浮遊していた神秘の石、否、コアアースを右手で掴むと着地した。
さっきまで二つに分離していたコアアースは、一つに合体してパワーを増したせいか、黄金色の光を放っていた。
あのバワーアップしたコアアースを、再び奴が胸にセットすれば―
奴は想像を遥かに超える力を手に入れるに違いない。
そうなったら、本当に世界は奴の手に落ちるだろう。
どうにかしなければ―
私は焦った。
しかしどうあがいても、やはり体を動かすことはできなかった。
すると、奴は不可解な行動に出た。
後方に佇んでいた、さっき私が身にまとっていた神像、否、鎧の方へと近づいていったのだ。
そして、その神像の胸に開いた穴に、手にしていたコアアースをそっとはめ込んだ。
すると―
奴の体が、さっきの私と同じように、すーっと神像の中へと吸い込まれていき、そのまま神像と一体化した。
そして私の方を向くと言った。
「いいか。俺こそが―俺こそが真のシントなのだ」
その時だった。
突然、ガイランドルがつき破った扉から、虚ろな表情した人々が、ぞろぞろと中へと入ってきたのだ。
三、四十人はいるだろうか?
人々は、まるで催眠状態に陥ったように、宙をまっすぐに見つめたまま、ガイランドル目指して歩いてきた。
そしてその中には―
何と、みっちゃんの姿もあった。
否、それだけではない。
美濃輪社長の姿も、その中にあった。
それを見て私は悟った。
ガイランドルの、偽のメッセージを聞きつけた日本中のエイリアンたちが、この場所に集まってきたのだと。
しかも彼らは、奴に意識をコントロールされているようだった。
「よしっ、止まれいっ」
と、ガイランドルは右手を上げ、人々に号令を掛けた。
と同時に、人々はガイランドルを囲むようにして、ぴたりと静止した。
奴は一体何を企んでいるのか?
私の中で、焦りが一層募っていった。
と、ガイランドルは人々に語りかけた。
「諸君、はるばるここまで、よくぞ集まってくれた。今より私が、君たちを病から解放し、生命を与えよう。こそこそと人間の陰に隠れ、自らを抑圧して生きるのは、今日が最後だ。皆よ、今こそ苦しみから解放され、自由になるのだっ」
奴がそう言い終えた時だった。
突然、奴の胸のコアアースが、黄金色の光線を放つと、群れの先頭にいた男性の頭を貫いた。
すると―
その男性の全身が、溶けるようにただれ始め、みるみるうちにゴリラのような、毛むくじゃらの野獣へと変貌を遂げた。
ガイランドルはそれを見て満足そうに頷くと、今度は胸のコアアースから、四方八方に向けて、次々と光線を放った。
そして光線は集った人々の頭を、次々に貫いていった。
すると同じように、頭を貫かれた人々が、ゆっくりと異様な姿へと変化していった。
ある者はセミのような顔に、そしてある者は猫のような顔に―
それぞれが、独自の顔や形に変化していったのだ。
それを見て、私は悟った。
人間に姿を変えていたエイリアンたちが、元の姿へ戻っていったのだと―
と、ガイランドルは彼らに呼びかけた。
「さあ、これで大丈夫だ。本来の姿を取り戻した君たちは、もはや病に苦しむことはない。恐れることはない。君たちは自由だ。そしてこれから私と共に、さらなる自由への闘争を始めようではないか。そう。人間どもを滅ぼすのだ。真の自由を得るために」
「おおう」
奴の呼びかけに、皆は歓喜の声を上げて応えた。
これが奴の狙いかー
みっちゃん、奴に騙されるな―
目を、目を覚ましてくれ。
ようやく奴の計略を知った私は、もはや心の中で、そう祈り続けることしかできなかった。
だがガイランドルは、そんな私を嘲笑うかのように、青く輝く鋭い視線を私に向けた。
そして再び視線を戻すと、突然群れの中の一人を指さし、「前へ出ろ」と命じた。
奴の指示通り、前へと歩み出たその人は―
みっちゃんだった。
なぜかみっちゃんは、人間の姿のままだった。
と、ガイランドルは私の方を指さして、みっちゃんに命じた。
「手始めに、お前があそこにいる人間を殺すのだ。そうすれば、お前も元の姿へと戻してやろう」
「分かりました」
意識をコントロールされていたみっちゃんは、何ら迷うことなく、奴にそう答えたのだった。
(つづく)

