みっちゃんの惑星 (55)
私は思わず、その石を掴もうと、宙に手を伸ばしていた。
しかしあまりの高さに、手は届かなかった。
「これは一体、どういうことだ?」
ガイランドルは、宙に浮かんだ石を見上げ、呟いた。
そして目線を元に戻すと、今度は後方で佇んでいたラミーに視線を向け、声を掛けた。
「神楽坂君は本当に何も知らないようだ。もしかすると、君が何か知っているんじゃないのか?」
私と同じく、元の体に戻ったガイランドルは、やけに口調が穏やかになった。
どうやら、奴がコアアースと呼んだあの石が、ガイランドルの邪悪な心をも強大にしていたようだ。
「知らない。私は何も」
と、ラミーはそう答え、ぷいとそっぽを向いた。
「嘘を言えっ。そもそも君は何者なんだ? 突然この世界に現れ、コアアースを持っていた。これをどこで手に入れたのだ?」
ガイランドルは、執拗にラミーを問い詰めた。
そしておぼつかない足取りで、ゆっくりとラミーの側へと、近付いていった。
「来るなっ」
ラミーはそれを見て怒鳴りつけると、身構えた。
しかしガイランドルは、それを無視して、つかつかとラミーの目前まで迫っていった。
そして一旦停止すると、ラミーの体を隅々まで眺め回した。
どうやら、彼女の体をスキャンしているようだ。
と、何かを見つけたのか、奴は突然ラミーに飛びかかると、彼女の首ねっこを右手で掴んだ。
すると彼女は、苦しそうに喘ぎ声を上げながら、手足をばたつかせて抵抗を始めた。
しかし奴は意にも介さず、彼女のベルトのフォルダーを左手でまさぐると、中から何かを取り出し、彼女を解放した。
よく見ると、それはゴールドに輝く、一枚のディスクだった。
「返せっ」
ラミーは慌ててガイランドルに飛びかかると、奴の左手からディスクを奪い取ろうとしたが、あえなく突き飛ばされ、後方へと転倒した。
「どうやらこの中に、秘密が隠されているようだ」
奴はそう呟くと、胸に開いた隙間に、そっとそのディスクを挿入した。
それから奴は暫くの間、ぴくりとも動かなくなった。
「ラミー、あの中には一体何が?」
私も慌ててラミーに問いかけた。
しかしラミーは悔しそうに顔を歪め、首を横に振って答えた。
「それは言えません。言ってはならないのです」
「どうしてなんだ?」
私が再び問いかけると、ラミーは俯き、固く口を閉ざしてしまった。
すると突然、ガイランドルが声を上げた。
「なるほど。そういうことだったのか。これで謎が解けた。全てのな」
「何っ、どういうことだっ?」
私は問いかけた。
しかしガイランドルはこちらを振り返ると言った。
「はははっ。君は知る必要などない。なぜなら、ここで死ぬからだ」
そして踵を返すと、今度は私の方へと近づいてきた。
「くそっ」
危機を察知した私は、すぐさま臨戦態勢を整えた。
だが奴はいきなりジャンプして、一気に私の目前まで迫りくると、右手で私の胸倉を掴み呟いた。
「ふふっ、無駄だよ」
「くそっ」
私は奴の胸に、左右交互にパンチを繰り出して抵抗を試みたが、奴はびくともしなかった。
逆に自分の拳が、痛烈な痛みに襲われるありさまだった。
もはや生身の体に戻ってしまった私には、成す術がなかったのだ。
「死ねっ」
奴はそう叫ぶと、いきなり痛烈な右ストレートを、私の顔面に食らわした。
ぐきっと、首が折れるような感触と共に、私は後方へと弾き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。
今度こそ駄目だ―
その時、私は実感した。
体から全ての感覚が失われてしまったのだ。
「カングラー、起きてっ。起きるのよっ」
お姉さんの絶叫が聞こえてきた。
どうやら私は、体には壊滅的なダメージを受けたものの、頭の損傷は大したことがなかったようで、意識だけははっきりしていた。
このままではだめだ、このままでは。
私はお姉さんの声に応えようと、再び体に力を込めようとした。
だがやはり、ぴくりとも動かせなかった。
どうやら、首と背中、否、全身の骨が砕けてしまったようだ。
と、その時だった。
「ラ、ラミーっ」
突然、お姉さんが驚いて声を発した。
何が起きたのか?
私は視線を、懸命にラミーの方へと向けた。
すると信じられないことが起きていた。
ラミーの体が、まるで空気に溶け込むように、ゆっくりと透明になり始めたのだ。
どういうことなのだ?
私にはまったく理解できなかった。
そしてラミーの体は、やがて完全に消え失せてしまった。
それを見てガイランドルは勝ち誇ったように言った。
「はははっ。俺は勝った。運命にな」
(つづく)

