みっちゃんの惑星 (48)
「くそっ。お姉さんを放せ。放さないかっ」
私は無我夢中で、ガイランドルのボディにひたすらパンチを放ち続けた。
拳の感覚がすでに無くなっていることも忘れて―
だがガイランドルは「うっとおしいわ」と呟くと、左手で私の首を掴んで持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。
と同時に、後頭部から背中にかけて激しい衝撃が走り、脳が浮き上がったような感覚を覚ると、私の体は地面に貼りついたように、硬直してしまった。
「言わんか。言えっ」
そんな私に、ガイランドルは容赦なく尋問を続けた。
だが意識が朦朧としていた私には、もはや言葉を発する気力がなかった。
見ると、奴に首を掴まれたお姉さんは、すでに意識を失い、うな垂れていた。
もうだめかー
それを見て、諦めの言葉を心の中で吐いた時、とたんに全身から一気に生気が抜け出ていくのを、私は感じた。
確かに私の中には、シントの血が流れているのかもしれない。
だが所詮、それは人間との交配により代々受け継がれてきたもので、生粋の血ではない。
この目の前にいるガイランドルの絶大な力には、奇跡の力も通用はしないだろう。
そんな絶望的な思考に、私が完全にとらわれてしまった時―
ガイランドルは「ちっ」と言うと、今度はお姉さんを地面に叩きつけ、次に私の腹を、右足でゆっくりと踏みつけた。
「ぐふっ」
その圧迫感に、私は思わずあえぎ声を発していた。
「喋る気がないのなら、このまま死ぬがいい」
奴はそう言うと、楽しむようにじわじわと、右足に力を込めていった。
その時私の頭の中を、今までの人生が走馬灯のように駆け巡った。
世間でよく言われる通り、死ぬ間際とはこういうものなのだな。
私はぼんやりとそんなことを思い、つい笑みをこぼしていた。
それにしても、なんともしがない人生だった。
やはり自分は、気が弱く、何の取り柄もない、ただの男にすぎなかった。
力を持つ者にかしずき、虐げられる人生―
まさに今の状況が、それを象徴していた。
最後の最後まで、自分はその程度の男なのだ。
仕方がない。
それが現実というものだ。
私は自分にそう言い聞かせると、生を放棄した。
と、無意識のうちに、言葉が口をついて出た。
「みっちゃん、さよなら」
その時だった。
突然、私はあることに気づいた。
まだみっちゃんを助ける手立てはあると。
そして決心した。
最後にできる限りのことをしよう。
それが唯一この世に残すことができる、自分が生きた証なのだからと。
それで私は、微かに残っていた余力を振り絞って、右手を地面の上で這いずらせた。
と、狙い通り、右手が固い物体に触れた。
私は急いでそれを掴み取ると、ゆっくりと目の前にかざした。
それはやはり神像だった。
私は固く目を閉ざすと、即座に心の中で念じた。
ブツダマルの使者よ。
私の声が聞こえますか?
どうかお願いです。
みっちゃんを、みっちゃんをお助け下さい。
お願いです。
お願い……
するとその様子を見て、ガイランドルが冷たく言い放った。
「馬鹿がっ。そんな物、もはや俺には通用せん。死ぬがいいわ」
そして今度は思い切り、右足に力を込めた。
その時だった―
突然、神像が真っ赤に輝き、両目から赤い光線を放ったのだ。
それはほんの一瞬の出来事だった。
光線は、ガイランドルの両目を貫いていた。
「うぐわっ」
奴は叫び声を上げ、両手で顔を覆うと、体を後方へのけ反らせた。
と、私の体から一瞬奴の右足が離れたので、私は思い切り体を回転させ、遠方へと逃れた。
すると一気に圧迫感から解放され、朦朧としていた意識が、ゆっくりと回復してきた。
だがガイランドルは―
一瞬、衝撃でたじろいだだけで、ダメージは全く受けていない様子だった。
奴は慌てて態勢を立て直すと、再び私の側へと駆けよってきた。
そして「こざかしい奴めが。死ねっ」と叫ぶと、今度は思い切り、私の腹を右足で踏みつけた。
「ぐふっ」
急激な圧迫感に襲われ、私はたまらず、大きな喘ぎ声を発していた。
その時だった―
天空に、突如として真っ白に輝く光の点が、浮かび上がったのだ。
私は驚きのあまり、はっと目を見開いていた。
そしてその光の点は、猛スピードで降下してくると、次第に野球ボールくらいの大きさに変化していった。
とその時、光の点の中心から赤い光線が放たれ、ガイランドルの背中を直撃した。
「ぐわっ」
ガイランドルは再び叫び声を上げると、衝撃で全身をぐらつかせた。
と一瞬、またしても奴の右足から力が抜けたので、その隙に私は体を回転させ、安全地帯へと逃れた。
(つづく)

