みっちゃんの惑星 (37)
7.
「こんな所に、隠し部屋があったなんて」
私は部屋の中を見回すと、感嘆の吐息を洩らした。
お姉さんは私たちを、みっちゃんが経営するコンビニの地下に造られた、隠し部屋へと連れてきたのだった。
この場所はかつて、おじいさん、否、プロフェッサーが経営していた駄菓子屋「みちくさ堂」があった場所だ。
それにしてもそこは洒落た部屋だった。
白塗りの壁に、フローリング仕上げの床―
そして中央に据え付けられた、マホガニー調のテーブルと革張りの白いソファー―
それらのアイテムが、まるで高級マンションの一室のような雰囲気を醸し出していた。
すると、部屋の奥にあったドアがゆっくりと開き、瑞穂が入ってきた。
「みっちゃん、気持ち良さそうに眠ってるよ」
瑞穂はそう言うと、ふっと安堵の息を洩らし、ソファーに腰を下ろした。
隣には寝室があった。
瑞穂は、ここまでおぶってきたみっちゃんを、寝室に寝かせたところだった。
みっちゃんは依然、意識が戻らないままだったが、、その顔色は幾分か回復し、気のせいか前よりも調子がよさそうに見えた。
このまま何事もなかったように、ふっと目覚めてくれないだろうか―
私はその安らかな顔を見つめながら、ここに来るまでの間ねずっと心の中で祈り続けていた。
と、今度は壁際のドアが開くと、その隙間からお姉さんが顔を覗かせ、「こっちへ来てみて」と私に向かって言った。
それで私は、言われた通り、そのドアから中へと入ってみた。
するとそこは、隣の部屋とはうって変わって、暗く埃っぽい部屋だった。
8畳ほどの広さだろうか?
漆黒に塗られた壁―
そして中央には小さなテーブルと椅子が二つ置いてあって、それを取り囲むように配置されている棚には、機械の部品のようなガラクタが、所狭しと積み重ねられていた。
私はその時、テーブルの上に、小さなモニターが一台置いてあるのに気がついた。
よく見るとその画面には、地上にあるコンビニの、店内の様子が映し出されていた。
どうやら監視モニターのようだった。
私は一旦モニターから目を離すと、おもむろに部屋の中を見回した後、お姉さんに問いかけた。
「この部屋は、何に使うんですか?」
「昔、おじいさんが使っていた研究室よ」
「じゃあ、ここにあるガラクタは、宇宙船の?」
「そう。残骸よ」
「へえー」
私はそれを聞いて、再び感嘆の息を洩らすと、それらの残骸をいくつか手に取って見た。
と、それら灰褐色の物体は、意外に軽かった。
プラスチックに似た感触だ。
それらの部品は、確かに人間が作り出したものとは、毛色が違うような気がした。
「そんなことより、これを見て」
すると、突然お姉さんが、テーブルの上のモニターを指さした。
「どれです?」
私が画面を覗き込んで問いかけると、お姉さんが「これよ」と言って、画面の右端を指さした。
見ると、そこには店内をうろうろする、老女の姿が映し出されていた。
画面が鮮明ではなかったので、すぐには思い出せなかったが、どこか見覚えのある老女だった。
「それとこれよ」
お姉さんはそう言うと、モニター盤の切り替えスイッチを押し、画像を切り替えた。
と、今度は画面に駐車場の様子が映し出された。
そしてお姉さんは再び、画面の右端を指さして言った。
「ここに車椅子の老人がいるでしょ? 駐車場に停まってるワゴン車から、あのおばあさんとこの老人が降りて来たのよ。この老人はまるで人形みたいにじっとしたまま動かない。でもおばあさんの方は、さっきから店の中や外をうろうろしてんのよ。まるで、何かを探ってるみたいなの」
「老人?」
私は目を凝らして、その車椅子の老人の顔を見た。
そして思わず声を上げていた。
「ああっ、これは美濃輪社長……なぜここに?」
(つづく)

