白い炎-さよなら、かかし先生-(18)
そして直義は家までたどり着くと、そのまま自室に引きこもり、物思いに耽った。
事態はまさに、最悪の方向へと進みつつあった。、
だからと言って、このまま香の暴挙を、手をこまねいて見ているわけにもいかない。
奴がやくざの二代目だからとはいえ、生徒会長としての威厳は取り戻さねばならなかった。
これはきっと、奴の挑戦に違いない。
屈したら負けである。
このままでは、全校生徒が香に支配されてしまうのだ。
そんなことは絶対にさせない。否、許せない。
こうなったら、正々堂々と奴と闘うしかない。
そして皆の前で奴を叩きのめすことで、威厳を取り戻すのだ。
力には力で対抗するのだ。
直義はついに決意した。
そしてその翌日、直義は固い覚悟を胸に、全身を強張らせながら登校した。
だがいざ教室へと入り、香を目の前にすると自然に体が震えだし、それを周囲に勘づかれないよう、抑えるだけで精一杯だった。
そしてつい返り討ちに遭い、自分がこてんぱんに叩きのめされる姿を想像してしまった。
確かに、奴に勝てばめでたしめでたしだが、負ければ地獄である。
温室育ちの自分と奴とでは、ハンデの差は歴然だった。
と、そんな風にあれこれ考えているうちに、突然胃袋がきりきりと痛みだした。
このままではやばい。
肝心な時になると、神経性の胃炎を発症してしまう。
直義は何もできない自分に苛立った。
そして結局、その日は香に指一本触れることができずに終わってしまった。
だが直義がそんなうじうじした日々を過ごしているうちに、香は着実に勢力を拡大していった。
そして気づいた時には、クラスメートたちは皆、香に対して「ですます」調の敬語を使って話すようになっていた。
放課後には、毎日当番制により、出席番号順に二人ずつがペアになり、教室内を掃除する決まりになっていたが、いつも香とペアを組まされていた太田誠二は彼にこびへつらい、「僕が一人でやりますから」と、一人で掃除を引き受ける始末だった。
そんな不公平な現状を知りながら、香を糾弾する者は誰一人としていなかった。
昼休みにドッジボールをして遊ぶ時も、いつの間にか香をリーダーとする三十人ほどのグループが出来上がっていた。
かたや、直義を中心とするグループは十七人―
運動場の一角にある球技場は、その二つのグループで二分されていた。
直義はプレーをしながら、香のグループをちらちらと観察した。
皆一様に表情は固く、びくびくと怯えた様子だった。
そして動きも固く、楽しんでいるというよりは、まるで強制労働をさせられているようだった。
彼らが暴力で脅され、いやいや仲間にさせられていたのは、一目瞭然だった。
そして香もプレー中、直義の方をちらちらと観察しては、ふふっと時折ほくそ笑んでいた。
香も自分のことを強く意識している―
直義はその時、改めてそのことを実感した。
そして確信した。
奴の目的はやはり、徐々に自分を皆から孤立させることなのだ。
そしてそんな自分を見ながら、奴は悦に浸っているのだと―
(つづく)

