「ふふ・・・。その武器、私にくれたら戦わずに見逃してあげるわ」夜星が口をにやけさせながら言った。
もちろん、渡すわけはない。なぜなら夜星の武器は手斧、武井の武器はナタだったからだ。どう考えても自分が有利だ。
「渡すわけないでしょ?」
そう言うと、夜星は残念がった。と思うと無防備に武井と2人でこっちに向かって武器を持って襲ってきた。
さっきと同様、ウージーを乱射した。武井が体を揺らしながら崩れていった。
「大迫・・・夜星は危ない。逃げた方が良い」と小声で武井がつぶやいた。
「え・・・?」気付くと夜星が視界から消えていた。
「私は・・・夜星に脅されて手伝ってるの・・・。裏切ったら、容赦しない・・・って・・・」と武井が言いきったところで後ろから妙な衝撃が走った。そして、激痛も走った。自分の肩に銀色の刃が見えた。
「う・・・」後ろには、夜星がいた。手斧を外すと次は倒れている武井の前に行き手斧を振り上げた。
「私を裏切ると容赦しないって言ったよね?」と聞いた。だが夜星は武井の返事を聞く前に、その手を振り下ろしていた。脳みそがかすかに飛び散ったのを大迫は見た。もはやウージーを構えずに呆然と立っている大迫を武井同様、脳に手斧を埋め込ませ、夜星は去って行った。もちろん、ウージーは忘れずに。
「残り32人」
神市朱敬羅(男子6番)は必死にある人を探していた。
ずっと、ずっと、ゲーム開始直後から探していた。すでにA,Bの全エリアは見回っていた。あえてAエリアから探しまわることによって見落としがないようにしていた。今は地図上、C-3の森の中で一休みしていた。本当は休んでいる場合ではない・・・。
朝野亜樹(女子2番)を守るため。
2人は中学校に入って同じクラスになってから、すぐに気が合い、付き合い始めた。
河北から聞いた。実は俺も小学校の頃は亜樹が好きだったんだ、と。
皆が認めるほど容姿の良い亜樹を守る資格は俺にある。俺に託された。そう思った神市は一目散に探しに行った。
神市自身もモテていた。長身で、クラスでは笹林進之介(男子9番)の次に高い。3番目は何葉川だった。
3年生ではかっこいい人とかっこ悪い人が極端に分かれていた。かっこいい人に該当するのは1組では天堂海斗、天堂風斗の2人しかいなかったが、2組には、神市朱敬羅、河北健、空端波矢天、何葉川和人、天堂燃斗、天堂雪斗、天堂雷斗、日向龍空、笹林進之介、そして不良だが大野愛砂磨の10人。この合計12人を女子の間ではイケメントゥエルブと呼ばれていた。現在の3年女子は、この12人以外の男子を好きな人はいなかった。
神市はバスケ部。短く刈りあげた茶髪に鋭い目と、男から見ても男らしい顔だった。バスケのレベルで言うと河北と笹林と良い争いのレベル。しかし、体力ならあの何葉川を余裕で超える。だからこそ朝野亜樹を走りながら探せるのだ。
神市は走るスピードを上げていった。
「残り32人」
一方、河北と空端はもうそろそろ流れる放送を待っていた。
「もうすぐだ。赤崎の無事を祈るしかないね」空端が低い声でそう言った。
脱出の方法を考えることが、そして赤崎が生きていることを願うのが今のこの状況で持てる希望だ。
「おーい。聞こえるかな?お昼の12時ですよー」
あまりにもふざけた口調に河北はちょっといらついた。
「脱落者を発表しまーす。男子2番、秋道武史くん。5番、岡川聖也くん。12番、庄司明文くん。14番高木勇気くん。20番、早坂潤くん。22番、松田秀敏くん。23番、宮城輝樹くん。女子行きまーす。5番、大迫紗姫さん。8番、桐谷つぐみさん。10番、坂町麻以さん。14番、武井美香さん。15番、田中佐江さん。18番、前園明日香さん。19番、水野春花さんだぞー。合計14人。残りは32人!頑張れよー。続いて禁止エリア。1時からI-2、3時からE-3、5時からE-6だぞー。じゃ、またなー。6時間後の放送を聞いてる人が少なくなるように先生、願ってるからなー。」
「赤崎は大丈夫だったけど、こんなに・・・」空端が肩を落として呟いた。
河北は反省してしまった。赤崎が無事で安心してしまったのだ。こんなくだらないゲームで命を亡くした人の気持ちを考えずに。もちろん、このバカげたゲームは順調に進んでいた。
「残り32人」