祖母の病室の向かいに、80代の婆さんが入院している。


食事は介助なしで自分で出来るものの、ほぼ寝たきりの状態。


隣室にはその婆さんの夫の爺さんが入院している。


その爺さんが杖をついて妻であるところの婆さんの病室へ足繁く通っている姿を何度も目撃した。


最後に必ず


「浮気するなよ」


と婆さんに注意していた。



ガソリンスタンドに勤める母が一昨日の朝、得意先の婆さんの家に集金に行った。


連日の冷え込みで、路面は凍結している。


「足元にくれぐれも注意してくださいよ」


と母は、その婆さんに注意を促した。


婆さんは


「外出しないから大丈夫」


と答えた。


昼に母が再びその婆さんに会うと、右腕を包帯で吊っていた。


隣家に回覧板を届けに行く途中、滑って転倒したのだという。



僕が帰郷するのと入れ替わりで、妹が東京へ帰った。


妹も、祖母の容態を心配して仕事を休んで飛行機ですっ飛んできたのである。


帰郷すると、妹は早速母とともに病院へ祖母を見舞った。


すっかり衰弱した祖母の姿に妹は困惑した。


それから祖母の手を取って、声を上げてしばらく泣いていた。


後ろからその様子を見ていた母は笑った。


妹の着ていた黒地のパーカーの背中に邪悪な、パンクロッカーが英語で凶悪なことを叫んでいるイラストがプリントされていたからである。


病人を見舞う時は、着るものにも十分注意されたいものだ。