幼少の頃より、女性と二人ぎりで気軽に会話のできる男を羨ましいなぁと思ってきた。
というのも、女性と二人ぎりで気楽な感じで会話をするということが苦手だからである。
つい緊張して肩に力が入り、沈黙を恐れる余り愚にもつかない冗談を言って相手を失望させてしまう。
それは相手の容姿にあまり関係なく、女性であるというただ一点のみで苦手意識を抱いてしまうということが長年にわたる調査の結果判明した。
ということを書いたのはほかでもない、今日会社帰りの地下鉄で後輩の女性と二人ぎりになったからである。
僕も35歳の立派な大人であるから、気楽な感じを装って気楽な会話を楽しもうと身構えたら、この身構えるのが良くないと気付き、早く気付いて良かったぁ、って敢えて弛緩してへらへら笑うなどしていたら、後輩が苦虫を噛み潰したような顔になったので慌てて顔を引き締めた。
幸い、後輩は尋常な表情に戻って、
「奥さんの調子はどうですか?」
と会話を切り出してくれた。
妊娠している妻の状態を気遣っているのである。
これ幸いと先週金曜日にエコー検査に付き添った時のエピソードを紹介した。
「5ヵ月だと、もう赤ちゃんも大きいのでしょう?」
と聞かれたので、
「ああ。もう20センチにもなったよ」
と答え、でもこれではてんで気の利いた答えになっていないと思い
「頭の先から顎の先まで」
と付け加えた。
また、愚にもつかない冗談を言ってしまった。
幸い、後輩は笑ってくれたが、後で緊張が解けてから振り返ると果して僕の冗談で笑ってくれたのか疑念があるので、この間のやり取りを再現すると。
「5ヵ月だと、もう赤ちゃんも大きいのでしょう?」
「ああ。もう20センチにもなったよ」
「えー。大きい」
「頭の先から顎の先まで」
「男か女か、もう分かったんですか?」
「え? あ、ああ、えーと。いや、まだ分かんない」
「いつ分かるんですか?」
「そ、そうだね、今度の検診でもしかしたら分かるかもしれない」
「奥さんはつわりとかはもう治ったんですか?」
「つわり? つわり、ね。えーと、な、治った」
「あ。ここ先輩、降りる駅ですよね」
「ぶわっ。やばい。それじゃ」
「ははは、やだ。お疲れ様でした」
良かった、ちゃんとウケたようだ。