見てはいけないものを見てしまったかもしれない。


拙宅はアパートの2階にあるのだが、玄関を出ようとすると、向かいのドアが開く音が聴こえた。


わざわざ顔を合わせて挨拶するのも面倒なので玄関の三和土のところでいなくなるのを待っていると、今度は3階から足音が聴こえてきた。


これもやり過ごして戸外へ出て、表通りを地下鉄駅へ向かって歩き始めた。


僕より20mほど先を歩いているのは向かいの旦那さんで、年は40歳前後、眼鏡をかけた勤勉なサラリーマン風である。


一回りくらい違うのではと思われる奥さんと子ども2人がおり、拙宅の向かいに住んでいる。


それより5mほど遅れて歩いているのは3階に主人と二人で住む主婦で、兵頭ゆきみたいな短髪、やはり40歳前後と思われるが比較的整った可愛らしい顔をしている。


しばらく後を追うようにして歩いていると、急に主婦が小走りになって、サラリーマンに追いつくや、ぴったりと寄り添った。


僕らの住むアパートから、ちょうど見えなくなる辺りである。


むむむ、これって、もしや……という疑惑の目を向けて、はたと気付いたというのは、つまり、この状況を見ている僕を2人に見られると、かなり気まずいということである。


僕は2人の進行方向から左へ逸れて、敢えて遠回りする道を選んだ。


地下鉄駅付近で再び出くわすとも限らないので、歩く速度を極端に落とし、「いっやー、雪が降ったなぁ」などとさして関心のない降雪に関心を寄せるなどしてとぼとぼ歩いていると、駅まで10mの交差点で2人に出くわした。


こんなことなら走れば良かったと後悔したが、もう遅い。


僕を見た2人は一瞬ぎょっとして、それからまた5mくらい距離を空けてしまったのである。


大変に気まずい。


一応、お互いの連れ合いには報告しておこうと思う。