名前を聞けば誰もが分かる有名企業の営業マンが、ご挨拶をしたいと僕を訪ねて来た。


先日我が社の別の者に同社の展示会を取材していただいたので、お礼方々とのことであった。


年齢は40歳前後。


すらりとした長身で黒のスーツをびしっと着こなしていて、さすがは有名企業の営業マンという感じである。


名刺を交わした後、


「粗品ですが」


と言って、展示会で配布していたボールペンを呉れたので、恐縮してしまった。


その後、日頃の営業で鍛えた巧みな話術で業界の話を繰り広げ、僕は圧倒されるばかりであった。


30分ほど問わず語りに語って、営業マンは


「今後とも宜しくお願いします」


と大きな体を折り曲げて慇懃に礼を言った。


それから腕時計を見て


「あ、もうこんな時間なんですね。こんなに長々とすみません、お忙しいのに」


「いえいえ、とんでもないです」


「いや、本当に申し訳ないです。取材もございますでしょうし」


「気になさらないでください」


「ほんと、手ぶらで来てしまいまして」


「いえ、そんな。粗品をいただいたじゃないですか」


言って気付いたが遅かった。


貰った方が「粗品」はないですよね。