5年前に室蘭に住んでいたときのことであるが、同業他社にT君という男がいた。
パチンコ好きのがさつなお調子者で何故か僕を気に入り、「ばってんちゃん」とちゃん付けで呼んで週末はたびたび食事や温泉に誘われた。
僕が自宅に招き、比較的手の込んだスパゲティを馳走すると、たいそう感激して
「ばってんちゃんってもしかして世話好き? がははは」
などと大口を開けて笑っていた。
歯に煙草のヤニが一杯付いていた。
「今度は俺がご馳走するよ。来週なんてどう?」
T君といると正直精神が疲弊するので、僕は曖昧に笑っていたが、強引に日時を決められてしまった。
当日。
一人住まいの侘しいT君のボロアパートを訪ねた。
絵に描いたような男の一人暮らしで、エロ本やゲームソフトが部屋中に散乱していた。
元来几帳面できれい好きな僕には耐えられない惨状である。
「ちょっと座って待ってて、今、用意するから」
と言ってT君は台所に立った。
手持ち無沙汰で改めて部屋の中を見回した。
食卓テーブルの下に紙片が落ちていた。
「怒れ、憤れ、殺せ」
とマジックで書いてあった。
T君の印象とは程遠い不穏当な内容だったので慄然とした。
何に対して殺意をむき出しにするほど憤慨しているのか、普段からこのような鬱屈した思いを抱え込んでいるのか、それとも、もしかしたら……。
「お待たせ、すき焼きだから。ばってんちゃんにはいつも世話になってるし」
僕がまごまごしていると
「何、どうしたの?」
「何でもない」僕はぷるぷる頭を振って、慌てて紙片を裏返しにして適当な雑誌の下に隠した。
しがない男二人の晩餐が始まった。
「ばってんちゃん、進んでないよ。飲んで食って」
「いやいや食べてる飲んでるハハハ。それより最近どうよ?」
「最近って?」
「いや、何か、困っていることとか、まあ何かあったら、俺、いつでも相談に乗るから」
「何だよ気持ち悪い。あ、少しテーブルの周りくらい片付けるかぁ。何ぼなんでも飯食うような環境じゃ……」
「いいよいいよいいよいいよ本当にいいからこのままでいいから。俺、散らかってる方が落ち着くから、汚いの大好きだから。つか汚くないと飯食う気しないから」
って慌てふためいて、飯どころではなかったのである。