金回りが悪くなって銭がいよいよ空しくなると、不思議と身の回りのものも空しくなる。
今朝、午飯(ひるはん)のために米を研いでおこうと、台所の下の棚から米袋(2kg入り)を取り出して愕然とした。
もはや米が空しくなんなんとしていたのである。
贔屓目に見ても1合かそこらしかない。
今日の午飯くらいは何とかなるが、明日以降、給料日までどうするのか。
新たに調達するよりほかないが、予想外の出費には違いない。
僕は滅入りながらも手際よく米を研いで、炊飯ジャーに設置したる後、外出するために身支度を整えた。
ほかでもない、競馬へ行くためである。
虎の子の3,000円を握り締め、勇躍自宅を飛び出し、自転車を疾駆させて札幌競馬場へ。
2時間後、文無しになって帰ってきた。
3Rまでやったが完敗であった。
敗残兵のごとく這這の体で帰宅したが、さらなる不幸が待ち受けていた。
午飯にしようと、しっかり水に浸した炊飯ジャーの炊飯スイッチを入れようとしたところ、保温状態になっていたのである。
コンセントを差し込んだままだったので、自然と保温スイッチが入ってしまったのであろう。
恐る恐る蓋を開けると、水に浸ったまま半ば炊けたような状態になっている。
再び愕然とした。
もちろん、このままでは食べられないので、炊飯スイッチを入れる。
何か人道にもとるようなことをしているみたいで、後で祟られはしまいかと戦慄した。
炊き上がり時間を計算しながら、レトルトカレーのパウチを湯にぶち込む。
カレー皿を用意して、三度愕然とした。
最前から欠けていた部分を起点に、ほぼ真っ直ぐに長い亀裂が入っていたのである。
こんな皿に盛り付けるのは事故の元だ。
幾度もの修羅場をくぐり抜けてきた猛者の僕はそう直感し、皿を燃えないゴミに出し、食器棚から手近にあった丼を取り出した。
動揺していたのだろう、手元が狂った。
床に落として真っ二つに割れてしまったのである。
何たら禍事か。
四度愕然とした。
目に涙を浮かべて割れた丼を見ていると、亀の甲羅で吉凶を占う占いで「大凶」と出たような錯覚に襲われ、涙が一筋頬を伝った。
そうしているうちに、炊飯ジャーが「ピーッ、ピーッ、ピーッ」と鳴った。
日本語に翻訳すると、「おっそろしく、不味い飯が、炊けました」といったところか。
戦々恐々の心持で再び蓋を開ける。
一見、尋常な炊き上がりに見える。
杞憂だったのかもしれない。
少し安堵した。
別の皿にご飯を盛り付け、加熱したパウチを破ってカレーをその上にかける。
一口食べて、五度愕然とした。
表面が粥のように柔らかいのに芯が粉っぽく、石灰のような味がしたのである。
「邪悪」という言葉が瞬時に頭に浮かんだ。
「邪悪な米」という以外形容のしようがない。
はっきり言ってその邪悪な米は、個性の強いカレーの味を消し去るほどの存在感で、噛めば噛むほど生気を吸い取られていくようである。
身から出た錆とはいえ、次から次へと襲ってくる災厄に戦くほかなかった。
あわわ。



