たらい回し。
一つの物事を、責任をもって処理せずに次々と送りまわすこと。「政権の―」「あちこちの病院を―にされる」(広辞苑)。
今日、たらい回しにされた。
きっかけは、得意先の業者らがNPO法人を設立するとの新聞報道。
そこで我が社も取材をしてこれを紙面に掲載し、得意先の歓心を買おうということになった。
僕を含む編集部員3人は皆それぞれに仕事を抱えて忙しく、「どうぞどうぞ」「いや、君こそどうぞ」「いやいや僕は」と譲り合う格好となった。
ところが部員の一人が「でも、これ意外とおいしい仕事ですよ」と言ったのを機に、「じゃあ僕が」「いや私が」と今度は一転手を上げて猛烈にアピールし、僕も負けじと「いやいや俺が行く」と大声を発したところ、他の2人が「どうぞどうぞ」ということになって結局僕が取材に行くことになったのである。
得意先を担当している管部長の指示で、まずNPO法人の構成メンバーであるA社の小野田係長に電話をすることになった。
ところがA社に電話をすると、小野田係長はあいにく留守で今日は戻らないという。
そう管部長に伝えると、「ちゃっ」と舌打ちをして再びA社に電話を入れ、「棚橋部長が対応してくれるから早く行って来い」と言われ、そそくさとA社に出向いた。
棚橋部長は全く要領を得なかった。
僕がNPO法人の設立について聞くと首を傾げるばかりである。
そこで棚橋部長は、「そうだ。土橋君を呼ぼう。彼なら分かるかもしれない」と言って部下に土橋君を呼びに行かせた。
程なくして土橋さんがやってきた。
改めてNPO法人設立の話を切り出すと、「ええ、ええ、確かに昨日総会を開きました」と言うので胸を撫で下ろしたのも束の間、「具体的な中身はB連合会の稲川君に聞いてください」と言って徐に携帯電話を取り出し、「これ」と携帯を僕の眼前にかざして稲川さんの携帯番号を教えてくれた。
A社を辞去し、早速、B連合会の稲川さんに電話をした。
はきはきとした語り口が好印象の男性であった。
これは期待が持てる。
「確かに私がB連合会の広報をしていますが、この件についてはあいにく担当していないのです。申し訳ありませんがC協議会の森田さんに電話してください。実は今度のNPOの理事になる方です」
「実は彼が黒幕です」みたいな口調で言った。
この時点で既に午後4時である。
締め切りは午後5時半。
間に合うのだろうか。
不安が頭をもたげた。
それからC協議会の森田さんに電話をし、結局B連合会の事務局で落ち合うことになった。
実は僕は今日、会社に内緒でマイカー出勤し、有料駐車場に停めていた。
B連合会は駐車無料の市役所付近にある。
散々たらい回しにされたが、ものは考えようでマイカーを市役所駐車場に移し、少しでも節約しようと思い立った。
人間、ポジティブでなければならん。
「僕はぽ~じてぃぶ、ぽ~じてぃぶ」と自作のポジティブの歌を口ずさみながら勇躍、市役所の駐車場へ向かうと、果たして駐車待ちの車が列を成していた。
最後尾で交通整理をしている誘導員のおっさんに「あとどのくらいで停められるか?」と尋ねると、「今日は動きが鈍い」と突っ慳貪に言った。
「急いでいるならここを真っ直ぐ行って2つ目の信号を右に曲がり、それから1つ目の信号を右に曲がったら左に見えてくる駐車場に停めた方がいい」
僕が「そこは無料か?」と再度尋ねると、一拍置いてから突っ慳貪に「有料だ」と言った。
僕は渋々有料駐車場にマイカーを停め、B連合会の事務局へ向かった。
C協議会の森田さんに会うためである。
森田さんは物腰の柔らかい老紳士で、名刺交換をした後に僕をブースに案内して問わず語りに話し始めた。
「お問い合わせのあったNPO法人設立の件ですが、その前にそもそも私どものC協議会というのは実は平成9年から…」
青くなった。
もはや5時になんなんとしている。
平成9年からのC協議会の歴史を聞いている暇は無い。
「あの、あの、それは、あの、また別の機会にということで、あの、ぜひ、まずですね、NPO法人設立のことについて伺いたいのです」
老紳士は一転憮然とした表情になり、投げやりな態度で説明を始めた。
なんとか5時直前に取材を切り上げ、市役所の前を横切って駐車場へ向かうと、1階トイレ付近を先頭に長蛇の列。
何かあったのだろうかという疑問が脳裏を過ぎったが、もはやそんなことを考えている余裕は無い。
僕は駐車料金350円を支払い、這這の体で帰社して原稿をやっつけ、それからさらに一仕事して帰宅し、朦朧とする頭で今こうしてブログを書いています。