入学式翌日、今度は割りと綺麗な建屋の4階で、工学部長、機械科長のありがたい挨拶の後、様々な書類を渡された。幼い頃から整理整頓の全くできない俺は、配布された茶封筒に、その書類を適当に放り込み、教室を出た。
教室を出てすぐに、「ねえ、ねえ、君、バイク好きなんやろ?会わせたい奴がおるんやけど…。」話かけてきたのは、オリエンテーション、入学式で見た、俺より髪の明るい奴だった。
俺より髪の明るい奴の名前は、まさつぐ。だから、それを短くして、つぐ。俺より年上なので、つぐくんと呼ぶことにして、その会わせたい奴をつぐくんと待つことにした。
「そやそや工学部共通棟の1階や」会わせたい人物と話しているようだ。電話を切るとすぐさま「俺、しゃべりかたおかしいやろ?岐阜出身なんよ」と、丸っこい顔がさらに丸くなって、俺に笑顔でそう言ってきた。関西弁でもなく、名古屋弁でもない中途半端な方言だが、熊本出身の俺としては、もの珍しく聞こえた。岐阜からわざわざこんな遠くまでよく来たなと思ったが、何も言わずに、愛想笑いした。
「ごめん、ごめん、待たせた」これまた超強烈な鹿児島弁で、入学式につぐくんの隣にいたベッカム風なソフトモヒカンがやってきた。ヒゲめちゃ濃いなーとあごの辺りを見入っていると、自己紹介されたので、俺も自己紹介した。ソフトモヒカンの彼は、「みんまーって呼んで」って言った。これまた、俺より年上だったので、みんまーくんと呼ぶことにした。
「鶴はさー、バイク何乗ってんのー?」リズムの掴めない鹿児島弁で、みんまくんが聞いて来た。「青いホーネットに乗ってるよ。みんまーくんは?」「俺は、まだバイク持ってなくてさー。2ストに乗りたいんだよねー」語尾を延ばすしゃべり方は、鹿児島弁だからか、みんまーくんだからか…、とにかく岐阜弁より心地良くは聞こえなかったが、嫌な顔一つせずに、みんまーくんの話の続きに耳を傾けた。
「NSRか2ストのオフ車に乗ろうと考えてるんだよねー、ところで、鶴は、NSRって何て呼ばれてるか知ってる?」親父の影響で小学生からバイク雑誌を読んでたのと、周りにバイク好きがいなかったため、自分ではバイクのことはまあまあ知ってると思っていた。俺のプライドが知らないという言葉を本能的に避けて、「さぁ?」と小さな声で答えた。
「NSRってね、走る棺桶って呼ばれてるんだよー」とすごい嬉しそうな顔だった。知らないことが悔しくて、でも、悔しがってることを悟られたくなくて、俺は「へぇー」と強がって答えた。
これが、伝説の男、みんまーくんとの出会いだった。