結局、俺は、同じ科で1個上の通称「にーさん」の誘いで、実戦空手同好会「正○会館」に入った。本当は、ビーチバレーをやりたかったので、バレー同好会に入りたかったのだが、にーさんの誘いで、空手同好会を見学に行くと、いつの間にか、入会していた。格闘技に興味ないわけでもなかったし、ミットを思いっきり殴れるから、ストレス発散にはちょうどいいかなってノリで入った。


入った当初は、週3回の練習に行く度、腕と太ももに赤紫のアザができていた。痛みはあったが、練習後の爽快感はたまらなかった。強くなりたくて練習日以外も、走ったり、筋トレしたり、すねを瓶で叩いたりと、夢中になった。


その甲斐あってか、アザはあまりできなくなった。体がなれたのか、自分の技術があがったのかはわからないが、先輩達との距離は明らかに狭まったという実感はあった。


ただ、どうしてもサークルの雰囲気に馴染めなかった。やってることは格闘技だが、練習以外ではどこかオタクな雰囲気があったし、バイクの話はにーさん以外とはほとんどできなかったので、正直つまらなかった。そして、俺はサークルを辞めた。

入学して数日が経ち、少しずつではあるが、緊張が解けていった。と同時に、18の俺は、ちょびっとだけホームシックになっていた。人付き合いの苦手な俺は、大学での用事が終わるとすぐに、アパートに帰ってPS2の三国無双2をやって寂しさを紛らわせていたが、この日は、みんまーくん達とサークル勧誘をされに、構内をうろちょろすることにした。


食堂から生協までの東に延びる通路は、新入生や先輩達でごった返しており、中々前に進むことができなかった。こんだけ勧誘する人が多いと、面倒だろうなと思っていたが、期待とは裏腹に誰も声をかけてこない。新入生らしき人らには、バンバン声が掛かっている。


なぜ俺達には?


そりゃそうだ、金髪のつぐくんに、オレンジ髪の俺、おまけに茶髪ソフトモヒカンのみんまーくんはビール片手に…んっ!!なんだこの人、いつの間に、缶ビール買って飲んでんだ?んでもって、自分から勧誘されに言ってる、と言うより声掛けてるし。これが、伝説の男、みんまーくんだ。


ビール片手に声を掛けてきた新入生に、先輩も話しにくそうだった。


結局、この日は、一度も声を掛けられることはなく、声を掛けただけの日となった。

入学式翌日、今度は割りと綺麗な建屋の4階で、工学部長、機械科長のありがたい挨拶の後、様々な書類を渡された。幼い頃から整理整頓の全くできない俺は、配布された茶封筒に、その書類を適当に放り込み、教室を出た。


教室を出てすぐに、「ねえ、ねえ、君、バイク好きなんやろ?会わせたい奴がおるんやけど…。」話かけてきたのは、オリエンテーション、入学式で見た、俺より髪の明るい奴だった。


俺より髪の明るい奴の名前は、まさつぐ。だから、それを短くして、つぐ。俺より年上なので、つぐくんと呼ぶことにして、その会わせたい奴をつぐくんと待つことにした。



「そやそや工学部共通棟の1階や」会わせたい人物と話しているようだ。電話を切るとすぐさま「俺、しゃべりかたおかしいやろ?岐阜出身なんよ」と、丸っこい顔がさらに丸くなって、俺に笑顔でそう言ってきた。関西弁でもなく、名古屋弁でもない中途半端な方言だが、熊本出身の俺としては、もの珍しく聞こえた。岐阜からわざわざこんな遠くまでよく来たなと思ったが、何も言わずに、愛想笑いした。


「ごめん、ごめん、待たせた」これまた超強烈な鹿児島弁で、入学式につぐくんの隣にいたベッカム風なソフトモヒカンがやってきた。ヒゲめちゃ濃いなーとあごの辺りを見入っていると、自己紹介されたので、俺も自己紹介した。ソフトモヒカンの彼は、「みんまーって呼んで」って言った。これまた、俺より年上だったので、みんまーくんと呼ぶことにした。


「鶴はさー、バイク何乗ってんのー?」リズムの掴めない鹿児島弁で、みんまくんが聞いて来た。「青いホーネットに乗ってるよ。みんまーくんは?」「俺は、まだバイク持ってなくてさー。2ストに乗りたいんだよねー」語尾を延ばすしゃべり方は、鹿児島弁だからか、みんまーくんだからか…、とにかく岐阜弁より心地良くは聞こえなかったが、嫌な顔一つせずに、みんまーくんの話の続きに耳を傾けた。


「NSRか2ストのオフ車に乗ろうと考えてるんだよねー、ところで、鶴は、NSRって何て呼ばれてるか知ってる?」親父の影響で小学生からバイク雑誌を読んでたのと、周りにバイク好きがいなかったため、自分ではバイクのことはまあまあ知ってると思っていた。俺のプライドが知らないという言葉を本能的に避けて、「さぁ?」と小さな声で答えた。


「NSRってね、走る棺桶って呼ばれてるんだよー」とすごい嬉しそうな顔だった。知らないことが悔しくて、でも、悔しがってることを悟られたくなくて、俺は「へぇー」と強がって答えた。


これが、伝説の男、みんまーくんとの出会いだった。

「趣味はバイクで、ホーネットに乗ってます。」


***********************************

○○大学入学式の前日、工学部機械科のオリエンテーションが、おんぼろの建屋の3階で行われた。始めに機械科の簡単な説明を「お前いくつや?」って感じの自治会の学生が説明した後、前の方から座ってる順に自己紹介するハメになった。


オリエンテーションに遅刻してきた俺は、前の方の席しか空いてなく、同じ高校出身の知り合いもいなかったので、席を探すまでもなく一番前の席に座った。なので、自己紹介は東町くんの次、全体の2番目に自己紹介することになった。


何も準備していなかったし、特に、言いたいことはないと思ったが、従兄弟の形見であるHONDAのホーネットに乗っていたため、名前と出身地を言った後に、「趣味はバイクで、ホーネットに乗ってます。」と付け足した。


自己紹介も終わり、他の奴が自己紹介をしていたが、ここは機械科。とにかく、キモい奴が多いと思った。そんな中、俺よりも髪が明るい奴がいたってのが、何だか悔しかった…。




翌日、初めての一人暮らしの朝を無事に向かえ、いわゆる期待と不安を胸いっぱいに、入学式に出席した。今回は遅刻はしなかったが、まだ友達はできていなかったので、適当に一人で座ることにした。


キョロキョロと周りを見渡すまでもなく、昨日のオリエンテーションにいた俺よりも髪が明るい奴をすぐに見つけた。どうもすでに友達を作っていて、茶髪でベッカム風なソフトモヒカンの怪しい男が隣に座っていた。俺達が18くらいのときは、金髪や明るめの髪がギリギリ流行っていた。