「せんせー、このおひなさま、こわいよ。
市松人形みたいで、にらまれてるみたいな気がする。」
ピアノの生徒さんのYちゃん(小学三年生)が
我が家のおひなさまを見て言った。
 
 
市松人形、なんて、ずいぶん難しい言葉知ってるね。
うん、確かに、いまどきのおひなさまに比べたら
こわい感じがあるかもしれない。
だって、これ、先生のおばあちゃんが作ったから、古いんだよ。
 
 
「え?せんせーのおばあちゃんが作ったの?」
 
そう。先生のおばあちゃん、すごく手先が器用でね。
服でも着物でもなんでも作ることができたの。
このおひなさまは、先生が生まれた時に、
そのおばあちゃんが作ってくれたんだよ。
だから、そんなにかわいくないかもしれないけど
先生には大事なおひなさまだから、
毎年、こうやって、ピアノの横に飾ることにしているの。
 
「じゃ、これ、世界に一つしかないおひなさまだね。」
Yちゃんがそろそろとのぞきこんだところへ
Yちゃんの妹のMちゃん(幼稚園児)が飛び込んできた。
 
「せんせえこんにちわー。うわあ、おひなさまだあ!」
駆け寄ってきたMちゃんに、Yちゃんが一言。
「M!さわっちゃだめ!
これは世界に一つしかないおひなさまなんだよ!」
 
わかったああ、というMちゃんも、そしてYちゃんも
いい子。
 
 
二月十六日  「ば」でした。
祖母は五段重ねのひな人形をすべて作るつもりだった
らしいのですが、当時我が家が狭い社宅に住んでおり
そのうちに・・と言っているうちに、父が転勤族となってしまい
結局、お内裏様とお雛様のペアだけになったそうな。
今となっては、その方が出しやすいし飾りやすいので
私は助かっていますが。
祖母は、七十歳を超えたころに、私の浴衣を作っていて、
「ああ、年をとったから作るのが遅くなったわ。
こんなの、若いころなら一日でしあげたのに。」とのたまって
おりました。一日で作ってたのね、浴衣・・・