成長しない大学三年生の与太話∧( 'Θ' )∧ -2ページ目

成長しない大学三年生の与太話∧( 'Θ' )∧

ドラムとかお腹とか叩いてる大学生のばたけろのくだらないブログです。
不定期更新になりました。

お久しぶりです失踪しておりました。嘘です。
少し前に授業で書いた小説が出てきたので試験的に置いておきます。唐突に。








蝉が鳴き始めて数週間、そろそろ夏も本格的になるというところ。都内某所のビル群の路地裏に入口を確認することができる地下の空間。そこにひっそりと佇む小さな事務所。男がその無機質なドアを叩くと、そこには二人の若い男女。男はデスクに脚を投げパソコンの画面を眺めているようだ。女性はタンクトップに短パンと露出の激しい、というよりだらしのない格好で、つまらなさそうに雑誌のページをめくっている。ブラックの珈琲を飲みながら。
「こんちは。今日も楽しそうですねぇ」
男が帽子のツバをくいっと上げ、軽く会釈する。すると女性の方が立ち上がり、男の方へずかずかと歩み寄ってゆく。
「あら、お巡りさん、今日は何の用?見ての通り、貴方のお世話になる必要もないほどクリーン過ぎて何もないですけれど。それとも、フレンチにのお誘い?なら急いで支度するわ」
彼女の名前は美鈴(みれい)。それ以外の情報は誰も知らされていない。
「いやいや、仕事をもってきたんですよ。署長さん、ちょっといいですか?」
男は若者――デスクに座っていた高遠慧(たかとうけい)に呼びかける。すると慧はその場から動くことなく返事をした。
「…ほんとの署長はこのじーさんだぜ?今にも死にそうな安らかな顔で寝てるけどな。んで、何?」
部屋の隅のソファでひっそりとうたた寝しているのは、立派な白髭を生やした老人。この事務所はこの老人・高遠正志(たかとうまさし)の名義で借りられている。が、齢八十になる彼の代わりに実際に動いているのが彼の孫、高遠慧であった。
「依頼だよ。守って欲しいんだってさ。ストーカー被害ならこっちでも対処できるんだけど、どうやらそうじゃないらしいんです」
「どういうことだ?」
「まあとにかく、話を聞いてやってください。これから来るように言ってありますから」
男はにっこりとしながらいくつかの書類を慧に渡した。
「いきなりだなお巡りさん。てか、警察の仕事を一探偵事務所に振るなよ…あり得ないだろう…」
ふて腐れる署長代理に対し男は相変わらずの笑顔で続ける。
「ちなみに相当な美人さんですよ、その依頼者」
「そりゃ楽しみだ、受けなさい、慧」
食いついたのは目を覚ました署長高遠正志であった。
「じーさん、生きてたのか。てか、その歳になってまだ女に興味があるのか…」
一方の美鈴は興味がないと言わんばかりに雑誌に目を戻した…かと思うと、いかにも不満気な声で呟く。
「なによそれ、私とどっちがいいのよ」
男は、美玲に近づき、耳元で何かを告げた。すると、急に美麗は顔を赤らめ立ち上がる。
「みなさん、相変わらず賑やかで大変結構です。そうだ、お土産に美味しいクッキーを持ってきたので、これでも食べて依頼者が来るのを待ちましょう。美麗さん、私にも珈琲を淹れて頂けますか」
美鈴は相変わらず不機嫌そうな顔をしながらも、薬缶を火にかける。
「お巡りさんさぁ、今業務中だろ?公務員だろ?こんなとこで油売って、女誑かしてていいわけ?」
そう言われた男は再び慧の方に振り替えると鞄から茶封筒を取り出し、慧に差し出す。
「今回の依頼料です」
慧が封筒の中身を確認すると、百枚程の札束が顔をそろえていた。
「おいおい、あんたほんとに何者だよ…」
「お巡りさん、ですよ。ここの管轄の。ほら、じゃじゃーん、警察手帳!」
慧はなおさら訝しげに男を睨む。
「お巡りさん、珈琲、砂糖入れるんだっけ?」
「うん。わかってるね。ありがとう美鈴さん」
「美鈴ちゃん儂にも」
「じーちゃん、いま私機嫌が悪いの。自分で淹れて」
 
 
――うさぎ型をしている、一見どこにでもありそうなかわいらしいデフォルメがされたウーさん人形。わたしの生まれ育ったまちの所謂ご当地キャラクターだったんですけれど、それを抱いて寝ないと眠れなかったんです。毎晩何時も何時も、ぎゅーっと抱きしめていました。大好きで仕方なくて、一番の友達でした。
――ところが久々に帰ってきた母はわたしを怒鳴りました。「あんたせっかく買ってやった人形大事にしないなら、もう何もあげないよ!」って。
――確かによく見れば人形はボロボロでした。首はよじれ腕はもげ、綿がはみ出していました。母は怒って、また何日も家を空けました。実際には怒って出て行ったのではなく、知らない男の家にでも行ったのでしょうけれど、そのときのわたしはまた母を怒らせ、置いていかれたのだと思っていました。
――そうしてわたしは、今度はウーさんを怨みました。お前の所為だ。お前さえいなければ、母親に愛想を尽かされることもなかったのに。お前の所為だ…
「守ってください」
細身の純白のワンピースに身を包んだ少女。依頼人・水野有紀(みずのゆき)十九歳。都内の専門学生で去年の春から一人暮らしをしている。武田優斗(たけだゆうと)という某電気メーカーに勤める彼氏がいたが、先月末に別れたばかりである。と、男から渡された書類には彼女に関する情報が書かれていた。
「何から何を守れっていうんだよ」
「あたしから、彼を…」
「は?」
美鈴はますます機嫌を悪くしていた。美鈴とは真逆のタイプの清楚な感じの女が、わけのわからない依頼を持ってやってきた。
「わたしはきっと彼や、彼を奪っていった女を殺します。そのあとでわたしのことも殺します。止めてください…助けてください」
「いわゆる、メンヘラってやつね。あのね、言っとくけどここ探偵事務所なの。依頼は素行調査とか、捜索とかなの。あんたの気持ちをどうにかできるところじゃないのよ。精神病院にでも行けば?」
「いや、守ってくれればいいんです。今から刺そうと思っているんで、貴女を」
「…は?」
水野有紀は胸ポケットからナイフを取り出し、それを美鈴に向けた。その瞬間、男が拳銃を取り出す。
「ごめんなさい。優斗さん…やっぱり私…」
男が首を振り、銃声が鳴る。
 
 
美鈴は、深い深い闇の中を漂い、泳いだ。しばらくの間泳いでいたが、その中に一筋の光を見つけて、それに触れてみた。
「わかりますか?水野有紀さん?」
「ここは…?じーちゃん?慧?」
「よかった。大丈夫ですよ今までのは全部夢です。治療は無事終わりました。もう何も怖いことはない。大丈夫」
「慧?何言ってるの?お巡りさんは…?」
「申し訳ないのですが、私は慧ではありません。私たちはあなたの記憶を少々すり替えさせていただきました。ここは病院です。私たちは医者です。あなたは…災難に巻き込まれたのです。しかしそれについて思い出す必要はありません。大丈夫、あなたのことは、私たちが守ります」
「どういうことなの、ねえ、私はいったい…」
そのとき美鈴は自身の手にボロボロのウサギの人形が握られていることに気が付いた。
「…」
ここは都内某所の地下室。陽の当たることのない、外界から遮断された空間。夢から覚めたた美鈴は、静かに涙を流した。美鈴の見た夢に出てきたことの何がどれだけ真実とリンクしているかは分からなかった。何故なら、現実のことは、何もかもすべて忘れてしまったのだから。ただ分かるのは大切な誰かの存在と、それを超える大きな憎しみの感情。
「私が誰かを傷つけたの?それとも…」
「有紀さん、もう、何も考えなくていいんですよ。珈琲でも淹れましょうか?」
「じいちゃ…いえ…結構です。少し、一人にしてもらえませんか」
「わかりました、では、これ、貴女の大好きな小説ですよ」
慧によく似た医者から手渡されたのは探偵モノの推理小説だった。主人公の名前は、慧といった。ようやく一人になった美鈴は静かに眼を閉じ、心の中で命だけ残された自分と向き合った。
――お前の所為だ
手術は失敗したのようね。
――やはり、間もなく私は、残された私を殺めるのです。でなければ寂しくて、寂しくて、安らかに眠ることはできません。私はそう決心しました。慧、じーちゃん、本当にごめんなさい。あなたたちをこれ以上巻き込みたくはないのです。大切な仲間だから――
数日後、医者は彼女の亡くなった部屋からこの遺書を発見した。読み終えて、シュレッターにかけた。
「これでよかったのか?お巡りさんよぉ」
「ええ、結構です。これで綺麗さっぱり、証拠隠滅です。水野美玲、彼女なら自らの手でやってくれると信じていました。愛していましたから」
「あんたほんとに何者だよ…」
「それはお互い様でしょう?あ、これ、追加の成功報酬です」
男は膨らんだ茶封筒を受け取ると、にっこりとしながらその場を立ち去った。