「冴子の百物語 寒い」
「寒い・・・」
冴子がその声を聞いたのは深夜、一人でキッチンで紅茶をすすっていた時だ。
一人暮らしの家の中で冴子以外に声を発する者などいるわけもなく
とはいっても隣の家からの声にしては近すぎる・・
しんしんと雪が降りしきる
世界の雑音は全てワタのような雪に吸収されてしまったかのような静かな世界
「寒い・・・寒い・・・・寒いよ」
「まさか・・・」
冴子は玄関のドアを開ける
フワー
舞い上がった細かい雪が冴子の顔にあたる
思わず目をつぶる
ゆっくりと目を開けた冴子は
家の前に
雪だるまが
佇んでいるのを
見つけた
冴子が昼間作ったやつだ
「室内にいれるわけにはいかないわね」
冴子は
部屋の中から
マフラーをもってくると
寒がりの雪ダル君の首に
そっと巻いてあげた(完)
さて、その雪ダルマがその後どうなったか気になるところだが、それはさておき
留守にしている隣家の屋根に雪が積もったので、隣人から頼まれもしないのに、親切心から隣家の屋根に上って雪かきをしたが、その際、屋根から落ちてけがをした場合、その治療費の請求をすることができるのであろうか?
<解説>
義務もないのに他人のために事務処理をする行為を事務管理といいます。
隣人が留守中にその屋根が崩れてきそうだったので、頼まれもしないのに、隣家の屋根を修理するといった場合を例に挙げることができます。
本件の隣家の屋根の雪かきも、隣人に頼まれもしないのに行ったというのですから事務管理に該当します。
この事務管理を行っている最中、事務の管理者が自己に過失なく損失を被った場合、本人に対して賠償請求をすることはできないと解されています。
よって、本件のように、屋根の上で雪かきをしている最中に屋根から落ちてけがをした場合、その治療費を隣人に請求をすることはできないということになります。