
大阪市営地下鉄の森之宮検車場(城東区)で今月、電車の4車両にスプレーで落書きされる事件が起きた。
近年、都市部の電車を狙った同様の事件は各地で起きており、同市営地下鉄だけで過去5年間に12件の被害があった。
専門家によると、世界をまたにかける「国際落書き団」が存在し、国外でも被害が後を絶たないという。
今後も立て続けに発生する可能性もあり、市交通局や鉄道会社は警戒度を上げている。
■暗闇に浮かんだ文字
約11万7千平方メートルの広さを誇る市営地下鉄最大の検車場、森之宮検車場。
立ち入りを防ぐため、高さ約2・5メートルの鉄柵やフェンスに囲まれ、その上には有刺鉄線が張り巡らされている。
検車場へと入り込む電車のライトに照らされたのは、停留中だった電車の車体にスプレーで描かれた英数字だった。
「Soh」「ICE」「16E」-。
いずれの文字も白色で、赤い縁取りがあった。
検車場は、巡回と電車の出入りの際以外は職員が不在。
同日午後7時ごろに職員が巡回したときには異常はなく、職員が不在となった2時間半ほどの隙をついた犯行だった。
フェンスなどに壊された形跡はなく、市交通局では犯人が有刺鉄線を越えて中に入ったとみる。
同局職員は「侵入にはかなり苦労したはずだ」と戸惑う。
■ニューヨーク発祥
スプレーやマジックで電車や壁などに描く落書きは「グラフィティ」と呼ばれる。
国内外の落書きを研究する東京都市大学の小林茂雄教授によると、1970年代に米ニューヨークで登場。
その後全米、さらにロンドンをはじめとする西欧に広がり、日本へと進出してきた。
グラフィティは「クルー」と呼ばれるグループで描かれることが多い。
ニューヨークやロンドンなどには数百のクルーがおり、その一部が落書きを目的に各国を渡り歩く「国際落書き団」になっているという。
一方、グラフィティを高い芸術性を持つアートだと自負するクルーも少なくない。
欧米を中心に、被害を抑制する対策として、行政側が特定の壁面を開放して自由に描かせる取り組みも実施されている。
「自分が作るものはアートで、人々が理解していると思った」。
平成20年12月、大阪市営地下鉄の電車に落書きしたとして、器物損壊などの罪で大阪地裁から有罪判決を受けたスロバキア国籍の美術家は、法廷でこう述べていた。
裁判では、美術家が共犯者のハンガリー国籍の大学生とともに落書き目的で来日し大阪と京都、東京、福岡で落書きを繰り返したことが明らかにされた。
23年秋には大阪や福岡、名古屋など9都市の地下鉄で被害が出たが、警察当局の捜査の結果、一連の落書きの直後に出国した欧米系の男女3人による犯行の可能性が高いとされる。
■防犯対策の限界
「落書きの目的は自己表現。電車への落書きはすぐに消されるが、電車に描いたこと自体や、報道されることで満足することがあるようだ」
小林教授はこう分析する。
外国人による犯行の場合、過去の事例傾向から、しばらく集中的に落書きが続く可能性があり、「全国的に監視を強化する必要がある」と警鐘を鳴らす。
実際に森之宮検車場近くにあるJR西日本の車両基地では「同様の被害が懸念される」として、これまで定期実施だった終業後の巡回を一時的に毎晩に変更した。
市交通局も巡回強化を検討しているが、抜本対策は困難だ。防犯カメラの導入はコストがかかり、巡回も人員に限界がある。
市交通局の職員は頭を抱えた。
2013/05/13
[時事通信]

