
原発のテロ対策を強化するため、原子力規制委員会事務局の原子力規制庁が原発作業員の身元調査の法制化に向け検討を始めたことが4日、分かった。
7月に施行される原発の新規制基準では、原発への航空機墜落などを想定したテロ対策が義務づけられるが、アルジェリア人質事件のように作業員がテロリストの内通者となった場合の対策はこれまでなかった。
主要国で日本だけがプライバシーの保護などを理由に身元調査を導入していなかった。
オランダで来年3月に開かれる予定の核安全保障サミットまでに、規制庁は核セキュリティー全般に関する制度の骨格を取りまとめる方針で、身元調査の導入はその柱となる。
犯歴や薬物依存の有無が調査対象の焦点となるが、照会方法などについては警察庁などとの連絡会議で詰める。
原発構内では数千人の作業員が稼働しているが、日本では運転免許証などによる本人確認のみで、構内の作業に従事することが可能だった。
海外主要国では犯歴や薬物依存の有無を調査している。
2011年に改訂された国際原子力機関(IAEA)核物質防護勧告では、事業者が実施する身元調査に政府が関与することが求められているが、主要国では日本だけが個人情報保護などを理由に導入していなかった。
東京電力福島第1原発事故では、事故収束作業に従事した後に連絡が取れなくなった作業員が多数いたことが問題化。
平成23年6月13日時点では所在が分からない作業員が最大で514人に達した。
その後確認できたが、現在でも偽名などで稼働していた10人が不明なままだ。
さらに、身分証を偽装して年齢を偽り原発構内で働く作業員も現れるなど、身元確認の不十分さが指摘されていた。
規制庁では医療、工業、教育などの現場で使われる放射性物質や関連施設に対する核防護も重要課題として取り組む。
核セキュリティー始動 米英仏など海外の原発主要国では、テロリストと内通するなどの原子力施設の「内部脅威」対策が進み、犯歴やテロリスト関連など国家保有の情報を活用した身元調査制度が取り入れられている。
日本でも東京電力福島第1原発事故前から内部脅威対策の必要性が検討されていたが、個人情報や人権保護の観点から結論は見送られてきた。
主要国の身元調査では米が事業者、英、独、カナダが規制機関、仏が治安機関と実施主体が異なる。
だが、いずれも国防や治安機関従事者への身元調査制度が先行して整備されており、原子力関連ではこれに準じた形で犯歴やテロリスト情報などを照会する制度が整っている。
日本では平成17年の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会で身元調査に関する議論がされたが、「プライバシーに関わる」との指摘で制度導入に向けた検討は見送られた。
このため、核セキュリティーのNGOが2012年1月に発表した核セキュリティー状況の国別ランキングでは「個人の信頼性」の項目で、日本は32カ国中30位と世界的にも低い評価となっている。
福島第1原発事故後の昨年3月に原子力委員会専門部会が「身元確認制度を導入することを目指し、具体的な制度についての議論を開始すべきだ」と言及したが、日弁連が導入に反対の声明を発表するなど依然として反対論は根強い。
警察幹部は「福島第1原発事故で水と電源を遮断すれば多大な被害を及ぼすことが露呈し、テロの標的が増大した。ハードとソフト両面のテロ対策を講じるべきだ」と指摘する。

核セキュリティー 国際原子力機関(IAEA)が中心となって進める核テロ対策。
2001年の米中枢同時テロ以降は、原子力施設や核物質の防護だけでなく、放射性物質を使用したテロや犯罪の脅威が懸念され、放射性物質の関連施設や、輸送などの関連活動を含めた防護にも重点が置かれている。
2013.5.5