中沢新一氏の「野ウサギの走り」に「最澄の冒険」の佳品がある。氏はこの世界をつくりあげているのは、ひとつの力の場であるとし、我々の意識現象も、このひとつの力の場と同一であるという。最澄も空海もこの力である日本古代の山林仏教の「自然智」(=自然状態にある智慧)を捉えていたとする。この自然智から、必然的に、最澄の天台宗の一元思想、空海の独特な瞑想法を持つ真言密教へとそれぞれ発展していったという。奇妙なのは、この自然智から、意識現象の世界を捉えると、世界は幻影のお芝居のように見えてくるという(世界は映像、夢のようなもの)。最澄は空海と比べられ、官僧として保守的と思われがちであるが、天台宗の開祖であり、真言密教も真摯に学び先鋭的であった。哲学・思想、仏教、神秘主義(呪術)などは、この自然智を目指す営為であり、最澄は当時、その先端を切り開いていたと思う。