神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?の考察~新潟県到着⇒米子沢編~(パソコン読者用)
※2010年・2月2日の記事を再編集
「ハア。やっと新潟に着いた……」
時刻は午後7時30分をまわっています。
12時間を越える長旅を経て、僕らは新潟県に到着しました。
僕は終始、神林と大西の相手をしていました。その疲れもあってその場に倒れ込みそうになったのですが、到着して駅を出るやいなや、テンションの上がった神林がなにやら叫び始めました。
「新潟!新潟!新潟!」
意味わからん!地名叫んでどうなんねん!
「新潟!新潟!新潟!」
静かにせいや!そんなテンション高い奴、クスリやってるか照英かどっちかやぞ!
「にっぽん!」
それなんやねん!にっぽんってなんやねん!右翼か!
「到着ついでに記念写真撮るか!」
移民か、俺ら!到着記念の写真とかいらんわ!
田舎だけあって、駅の周りには何もありません。駅一帯がシーンとしているのに、神林だけがはしゃぎ倒しています。本当に頭のおかしい奴で、僕らはいい迷惑なのです。
神林の指示で、駅をバックに写真を撮ることになりました。
この合宿の撮影係は、大西です。まず大西がカメラを持って、僕らの写真を撮りました。続いて全員の写真を撮るために誰かに撮影をお願いすることにしたのですが、近くのベンチに座るどう見てもヤクザにしか見えないオッサンに、大西が「写真、撮ってもらえません?」とお願いしやがったのです。
なんでそいつ選ぶねん!のきなみズレてんねん、お前は!そもそもヤクザが写真撮ってくれるか!
「いいよ」
OKやった!しかも思いのほか声高かった!
「みんな、もっと真ん中に寄って!」
いいほうのヤクザやった!「おふくろさんを大切にするほう」のヤクザやった!
「あんたたつ、どっから来たの?」
めっちゃなまってた!なまりヤクザやった!
「関西です」
「関西のどこ?」
「(神林が)豊中です」
市で言うな!大阪でええやろ、お前!越後もんが「あっ、豊中か!」とか言うとでも思ったか!
「リュックを背負ってるけど、何しに来たの?」
「(神林が)探検です」
概念を言うな!クラブの合宿でええやろ!新潟に探検って、越冬隊か、俺ら!
このなまりヤクザは、とてもいい人です。僕らにスーパーマーケットの場所を教えてくれました。テントを設営する場所を探していると告げたところ、近くの公園まで僕らを連れて行ってくれました。
「ありがとうございました!」
僕らはお礼を言って、なまりヤクザと別れました。
公園に入って、テントを設営することになりました。
ここでも、神林は張り切ります。要領をえない大西に、「できる探険家」を見せつけ始めました。あからさまに手際のよさを見せつけ、「ペグ」を「ネイルテントペグ」と、正式名称で呼び始めたのです。
うざいわ、こいつ!ペグでええやろ、お前!そもそも今までそんな呼び方してなかったやろ!
「大西、そこのネイルテントペグを取ってくれ!」
「えっ?」
「ネイルテントペグや!」
「なんですか、ネイルテントペグって?」
「お前、ネイルヘントセグもわからんのか!」
お前も言えてへんやんけ!無理して言ったからボロ出てるやんけ!
「大西、それが終わったらグランドシートを敷いてくれ!」
「グランドシートってなんですか?」
「フロアシートのことや!」
「フロアシートってなんですか?」
「グランドシートのことや!」
幼卒か、お前!最終学歴幼稚園か、お前!
「だからグランドシートってなんですか?」
「フロアシートのことや!」
いつ終わんねん、これ!このアホのループ、いつ終わんねん!
「とにかく大西、自分で考えて動け!人にいちいち訊くな!」
「わかりました。じゃあ、ペグを打ちつけますね」
「えっ?」
お前も訊いてるやんけ!お前もいちいち人に訊き返してるやろ!
「神林さん、大西は初心者なんで、テント設営は僕らだけでやりましょうよ」
「えっ?」
「テント設営は僕らだけでやりましょうよ!」
「えっ?」
「大西はまだ探検部に入ったところなんで、テント設営は追々教えていきましょうよ!!!」
「バスコ、声でかいわ!」
なめてんのか、お前!どんな教育受けてきたらそんな性格になんねん!もう校長を呼べ!校長を説教するわ、俺!
それでも、なんとかテントは完成しました。
6人用のテントなので、中は広いです。リュックを中に入れて僕はその場に寝転んだのですが、靴を脱いだ神林の足がまた、めちゃくちゃ臭いのです。
勘弁してくれよ、おい!奴隷の足より臭いやんけ!
「ごめん」
ごめんやあるか、お前!アメリカやったら裁判やぞ、こんなもん!「被告人は足を静粛に!」とか言われるぞ!
テント内は一瞬にして、神林臭でいっぱいです。あまりに臭くて、あのおとなしい大西が「臭っ!!!」と今日1番の大声をあげたのです。
恒例の匂いを嗅がされた僕は、一気にテンションが下がりました。そしてここからますます、神林リーダーの「実力」が発揮され始めたのです。
そこで今回は、「神林リーダーと行く旅行はどれだけ大変か?」の考察~新潟県到着⇒米子沢編~です。
テント設営を終えた僕らは、近くのスーパーに買出しに行くことになりました。
時刻は午後8時。店に入り、今日の晩ごはん、及び、明日の分の食料を買います。明日は米子沢の山中で寝泊りするため、計5食を買うことになったのですが、この合宿の食料係は神林なのです。
合宿の食料係は、すべてのレシピを決定する権限があります。神林はCLと食料係を兼務しており、ワケのわからない提案を始めたのです。
「神林さん、晩ご飯、何にします?」
「そうやな。初日やし、カレーうどんとかどう?」
カレーライスにせいや!なんでいきなり麺いくねん、お前!で、「初日やし」ってどういうことやねん!
「神林さん、それやったら、カレーライスにしましょうよ!」
「カレーライスか。でも昨日の晩、カレーライスやったしな」
じゃあカレーうどんもやめろや!昨日がカレーやってんやったら、カレーと離れた飯にせいや!カレーうどんでもカレーはカレーやろ!
「カレーうどんにするべきか。それともドライカレーにするべきか……」
ドライカレーはカレーやろ!カレーライスはNGでカレーうどんとドライカレーはOKって、ようわからんねん、お前の味覚!
「でもやっぱり、麺類が食べたいねんな。ヤキソバパンにしようかな……」
麺類に入んの、あれ!?たしかに麺入ってるけど麺類なん、あれ!?
「松山さん、麺類はどうですかね?」
「俺はなんでもいい。とりあえず早く決めろ」
「吉田は何が食べたい?」
「僕もなんでもいいです」
「大西は?」
「ハンバーガーです」
テリーマンか!キャンプですらハンバーガー食いたい奴なんて、お前とテリーマンしかおらんぞ!
「ミックスフライ定食でもいいです」
やよい軒行け、お前!キャンプで定食界の雄にありつけると思うな!
「もう、わからんわ!バスコ、決めてくれ!」
「本当に僕が決めていいんですか?」
「いいよいいよ、決めて!」
「僕は、やっぱりカレーライスですね」
「カレーか……」
死んだらええねん!寝違えすぎて死んだらええねん、お前みたいな奴!
「ドライカレーじゃダメ?」
カレーやろ、だから!その妙な判断基準なんやねん、さっきから!審判いるわ、もう!
このように逐一、イライラさせられます。周囲が「早く決めてくれよ!」と怒っているのも気にせず、しまいには「やっぱり、フランスパンにするか」と言いやがったのです。
晩餐会か!宮中晩餐会か、俺らのキャンプ!俺らは勝ち組の貴婦人の集まりか!
「神林さん、フランスパンは勘弁してくださいよ!そもそもオカズはどうするんですか?」
「カレーうどん」
食い合わせ、おい!大西といいお前といい、食い合わせどうなってんねん!口の印仏戦争は勘弁してくれよ!
結局、僕が押し切って、カレーライスを作ることになりました。麺を5玉買っておき、今晩、カレーを多めに炊いてタッパに保存し、明日の晩に山中で、カレーうどんを作ることになりました。
スーパーでは、食料以外のモノも買います。非常食やお酒を購入し、個人的な買い物も許されます。嗜好品として、私費でアメやガムを購入するのですが、神林がフランスパンを丸ごと1本買いやがったのです。
給料日のフランス人か、お前!だいたいリュックにどうやって入れんねん!なんや、背中に巻きつけて移動すんのか!?刀狩りの帰りか、お前!
「ルマンドも買っとくか」
出た、ルマンド!なんでそんなにルマンド好きやねん、お前は!
「ココナッツサブレも買っとくか」
こぼす奴多いねん!なんでこぼし系ばっかり買うねん!脳ミソもそこそここぼれとるしよ!
時刻は午後9時をまわりました。
買出しを済ませた僕らは、公園に戻りました。
ヘッドライトで照らしながら、カレーを作ります。大西が米を研ぎ、僕と吉田は野菜を切り始めました。
ですが、神林が調理に際して、変なこだわりを持っています。米の水の配分がどうだとか、牛肉を入れる順番がどうだなどと口うるさく、野菜を切る僕に、「ジャガイモは絶対に真四角に切ってくれ!」とお願いしてきたのです。
うざいわ、こいつ!キャンプやねんからなんでもええやろ!
「うちの母さんのカレーのジャガイモは四角やねん!」
お前の母ちゃんは知らんわ!キャンプに母ちゃんを持ち込むな!
「バスコ、その袋にチクワ入ってるから切ってくれ!」
なんでチクワ買ってんねん、お前!カレーにチクワって、貧乏人のカレーやんけ!月2万ぐらいの団地に住んでる家のカレーじゃ、こんなもん!貧乏人はなんでもチクワ入れたらなんとかなると思ってるところがあるからな!
30分ほどして、カレーができあがりました。
僕らは腹ペコです。勇んでカレーの鍋に向かったのですが、先頭に躍り出た神林が、自分の皿に死ぬほどルーを入れやがったのです。
デブの給食か、お前!体育の授業終わりのデブの給食か!少しは遠慮せいや!
「神林さん、入れすぎでしょ!僕らのことも考えてくださいよ!」
「だってカレーやもん!」
……だからなんやねん!一瞬納得しかけたけどだからなんやねん!
「カレーやからしゃあないやろ!」
俺らもカレーやねん!この世のカレーは万人に対してカレーやねん!カレーは民主主義じゃ、メモっとけ!
神林は自分のことしか考えていません。CLのくせに、仲間への気遣いが一切ないのです。
途中から、切ったフランスパンにカレーのルーを塗って食べ始めたのですが、やたらと僕らを見ながら食べています。「これ、おいしいわ!」を連発するなど、見てるだけで腹が立ってくるのです。
時刻は10時になりました。
食事を終え、あと片づけを済ませた僕らは、テントに戻りました。
明日は朝が早いです。寝袋を用意し、もう寝ることにしました。
ふと見ると、僕の隣の大西が、なにやらリュックをごそごそしています。プラスチック製のキツネの置物みたいな奴を取り出して、僕らのあいだに置きました。
「大西、それ何?」
「僕は今回の合宿の起床係なので、目覚まし時計を持ってきたんです」
丸ごと持ってくんなよ!腕時計のアラームとかでええやろ!お前がまず目を覚ませ!
「僕の腕時計のアラームは、鳴る確率がロッテの高沢の打率よりも低いんです」
ようわからん、そのたとえ!ロッテの高沢とか言われてもピンとこんわ!
本当に変わっているのです、こいつ。僕に「歯ブラシを貸してもらえませんか?」とお願いしてきたり、明日の昼ごはん用に買った『棒ラーメン』の包装を見ながら、「棒ラーメンって、ハハハハハ」と1人でくすくす笑ったりと、挙
動がすべておかしいのです。
大西の挙動不審さが気になって、僕は眠れません。神林の足も臭いです。神林から1番遠いところに寝転んだのに、匂いが鼻に届きます。
僕は毎度同様、鼻にタオルを載せました。幸いにも疲れていたので、しばらくして眠ることができました。
迎えた、翌朝。
起床時間である6時に、大西の目覚まし時計がテント中に鳴り響きました。
「♪クルルンパッ!そーれっ!クルルンパッ!そーれっ!起きようよ!そーれっ!起きようよ!」
これなんやねん、おい!なんやねん、この不愉快な目覚まし!音がでかすぎて鼓膜にメラゾーマくらったみたいやねんけど!?
「大西、なんやねん、この目覚まし!?」
「神戸の南大門(なんだいもん)さんにもらったんです」
誰やねん、南大門って!俺らも知ってる奴みたいな言い方で言ったけど、なあ誰、そのイケてるかイケてないかが微妙な名字の奴!?
「僕の母親が南大門さんにビール券をあげたら、お礼として僕にくれたんです」
知らんがな、そんなもん!ていうか、南大門ってどんな名字やねん!名字がすでに難題問やわ!
朝からおかしいのは、大西だけではありません。ふと見た神林がフランスパンをかじっているのです。
寝起きやんな?パッサパサの口にパッサパサのパン掘り込んでるけど、今たしか寝起きやったやんな!?
「いる?」
いらんわ!戦時中でもいらんわ、寝起きやったら!
起きて早々、ブルーになってきました。
ハア、今日もろくなことがないんやろな……。また神林と大西に振り回されるんやろな……。
僕は行く末に不安を感じながらも、テントから出ました。
昨夜のごはんの残りを使って、雑炊を作りました。雑炊を食べ、テントを畳み、「清水」というところに向かって、バスに乗ることになりました。
5分ほど歩いて、バス停に到着しました。
すぐにバスが到着し、早朝なので、乗客は数えるほどしかいません。僕は2人席の窓側に座ったところ、大西が僕の隣に座ってきたのです。
なんでやねん、お前!新婚さんか、俺ら!
それでも、向こうに行け、とは言いづらいです。時間を追うにつれて、乗客も増えてきました。僕は我慢することにしたのですが、昨日の電車同様、沈黙が苦痛です。大西から話しかけてくることはなく、僕から会話を展開しなければならないのです。
「大西、昨日は寝れた?」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「……」
「蚊には刺されへんかった?」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「……」
生きてるよな?自分、死んでないよな!?俺は映画『シックスセンス』の人と違うよな!?
「でも、今年のロッテは強いな。優勝するかもしらんな」
「そんなに甘くはないですよ!」
なんやねん、お前!せっかくお前の好きなロッテの話をしたったのになんやねん!
「大西は、暇なときは何してんの?」
「腕立て伏せしてます」
三島由紀夫か!三島の休日の過ごし方やんけ、それ!
「ほかは?」
「テレビを見てます」
「好きな番組は何?」
「いろいろ見ますけど、日曜日の夜にやってるプロレスは必ず見ます」
「あっ、プロレスが好きなんや」
「はい」
「誰が好きなん?」
「マサ斉藤です」
なんでマサやねん!俺、マサが好きな奴と初めて出会ったわ!まさか生きてるうちにマサのファンと出会えるとは思ってなかったわ!
「マサ斉藤のどこが好きなん?」
「魂です」
熱っ、こいつ!意外に熱かった!魂基準で人を評価してた!
「そうか。俺は蝶野が好きやな」
「僕、蝶野は大嫌いなんですよ!」
何なん、お前!人が会話つなげようと努力してんのに、なんで話の腰を折ってくんねん!
「だって蹴りすぎでしょ?」
プロレスってそういうもんやろ!格闘技やねんから蹴るやろ、どう考えても!
「それよりバスコさん、今から米子沢に行くじゃないですか」
よっしゃ、自分から話しかけてきた……。プロレスの話で打ち解けたのか、心なしか笑顔も見える……。
「それがどないしたん?」
「この米子沢(よなごさわ)を、『こめこさわ』って読む人がいたらどうします?」
「……はっ?」
「(笑いながら)でも、いくらなんでも『こめこさわ』って読む人はいないですよね?」
どこツボやねん、お前!何がおもろいねん、それの!
「ククク、よなごやのにこめこて……」
わからん、お前の性格!急にボケて急に笑うからどうしたらいいかわからん!
ほどなくして、通路に置いてあるリュックから、大西が大きな瓶を取り出しました。何かの瓶詰めらしく、割り箸を使って食べ始めました。
「……大西、それ、何?」
「健康食品で、漢方薬を煮詰めたものです」
ババアか!しぶとく生きたいと願うババアか!人生に粘りたいババアか!
「こないだ南大門さんが持ってきてくれたんです」
また出た、南大門!で、南大門はなんでそんなに持ってくんねん、いろいろと!
「南大門さんの息子さんって、クーラーと倉庫を直す天才なんですよ」
知らんがな、そんなもん!南大門すら興味ないのに、南大門チルドレンのことなんてまったく興味ないわ!ていうか、クーラーと倉庫を直す天才ってなんやねん!それで天才やったらイナバ物置に乗ってる100人全員天才やわ!
「♪クルルンパッ!そーれっ!クルルンパッ!」
目覚ましなっとるやんけ!目覚ましなってる、目覚まし!
「♪起きようよ!そーれっ!起きようよ!」
早く止めろや!めちゃくちゃ恥ずかしいやんけ!
「起きろ!そこの君、起きろ!イヤな昨日も、朝がくればもうイエスタデイ!」
ここなんやねん、おい!この気持ち悪いセリフなんやねん!
「すいません!」
「なんで目覚ましが急に鳴んねん?」
「この目覚ましは古いんでたまに勝手に鳴るんです」
南大門に返せ!そんな不良品、南大門に返せ!で、その難題問を息子さんに直してもらえ!
前日同様、大西はつかみどころがありません。心を開き始めたものの、黙り込んだかと思えば急にいきり立ち、自分から話しかけてきたかと思えば急に笑い出したりと、相手をするのが大変なのです。
そうこうするうちに、清水に到着しました。
時刻は午前7時40分。近くの駅に移動し、コインロッカーに貴重品を入れました。荷物を減らすためにムダなものをすべて入れ、僕らは米子沢に向かって歩き始めました。
そして、午前8時20分。ようやく沢登りの舞台である、米子沢の入り口に到着したのです……。
続く……。