木下さんは何者か?の考察~ベスト版⑨~(パソコン読者用) | 新・バスコの人生考察

木下さんは何者か?の考察~ベスト版⑨~(パソコン読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日、近所の銭湯に行きました。


 ここは朝から営業しており、知り合いが頻繁にタダ券をくれます。最近では週に1度は朝風呂に入るようになり、この日は近所のおじさんも一緒です。


 体を洗い、おじさんと一緒に湯船に浸かりました。


 他愛のない会話をし、ふと入り口に視線を投げたところ、ものすごい巨根の若者が入ってきました。巨根も巨根、影踏みでそこを踏みそうなぐらいの特大サイズで、僕らの目が釘付けになったのです。


 「ちょっと待って、何、あれ……」


 思わず、声が出ました。おじさんも驚き、「あんな奴が存在するんや……」と2人でささやき合うなど、とにかく巨根なのです。


 サウナに入ってからも、話題はそのことで持ちきりです。「流行語大賞なるわ!」というぐらい、2人で巨根を連発します。僕らはサウナと水風呂を何度も往復し、気がつくと、風呂場に入ってから1時間以上も経過していました


 風呂場を出て、僕はコインロッカーに移動しました。


 僕は体を拭き、おじさんはトイレに行っています。するとほどなくして、巨根が風呂場から出てきたのです。


 ここのコインロッカーは、縦に3個で、15列あります。巨根は、僕の隣の隣の列の真ん中を使用しています。巨根の上のロッカーがおじさんのロッカーで、トイレから戻ってきたおじさんが、巨根に向かってこう言いました。


 「ちょっと上ごめんな、巨根の兄ちゃん!」


 勘弁してくれよ、おい!本人に言うなよ、そんなこと!


 「ごめんな、巨根!」


 また言いやがった!ていうか、巨根て!巨根の兄ちゃんやったらまだわかるけど巨根はないやろ!


 「おっちゃん、本人に巨根って言ったらあかんやろ」


 僕はおじさんを呼び寄せて、耳元で注意しました。


 おじさんは、「全然気づかへんかった……」と、ようやく自分の過ちに気づいたようです。返す刀で巨根に歩み寄り、「巨根って言ってごめんな、巨根」って言ったんですよ。


 何考えとんねん、お前!そもそも巨根の身にもなれよ!この30秒だけで巨根って4回言われてるんやぞ!


 このおじさんの名前は、木下さん。


 僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 日ごろからおかしなことを連発し、つい先日もチゲ鍋のスープを飲んだ際、「うわー!これ、めっちゃ赤い!」って言ったんですよ。


 からいや!飲んでめっちゃ赤いってなんやねん!


 「赤い赤い!ノドの奥まで赤い!」


 赤狩りの責任者か、お前!「共産党味」かなんかか、この鍋!道理で具材が左に集まってるわけや


 とにかく、おかしいのです。同じ人間とは思えない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版⑨~です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。毎度同様、信じがたいお話ばかりですが、すべて実話です。


検証エピソード①『早口言葉』
 これは、つい先日のお話です。


 その日の夕方に、テレビで、老人に早口言葉を言わせる番組が放送されていました。


 脳の衰えを防ぐには、早口言葉がいいそうです。老人に早口言葉を言わせ、言えない老人が多いことから、その失敗する姿を見てスタジオの出演者が笑っていました。


 テレビの前には、僕と木下さんがいます。


 「おっちゃんも、もういい歳やから、早口言葉で脳を強化してみたら?」


 隣に座る僕が提案したところ、木下さんも「そうやな!」と乗り気。ひとまず、番組内でも使われていた「すもももももも、もものうち」を言わせたところ、「すもももももももももももももももも……」と「も」が止まらなくなったのです。


 口どうなってんねん、お前!滑走路か、お前の口!


 「ももももももも!!!」


 耳に「も」が!俺の耳に「も」がいっぱい入ってきた!


 「ももももももももももも!!!」


 新型兵器やわ、もうこれ!ちょっとした新しいテロやわ、こんな至近距離でそんなこと言われたら!


 もう1度言わせても、「すもももももももも、ももももももももも」と、「も」が止まりません。木下さんは、脳の構造がやばい人です。「も」の数を覚えられず、同時に、羅列した「も」の勢いがすごいことから、どこで「も」をやめればいいのか判断できないのでしょう。


 それでも、せっかくの機会です。僕は木下さんがちゃんと言えるように、調教することにしました。


 「おっちゃん。とりあえず、『すもも』って言ってみ」


 「すもももももももも……」


 「ストップストップ!違う違う、『すもも』だけ」


 「すももももももももももも」


 「違う違う!すもも!『す』のあとに『も』が2文字だけ!」


 「すももももう」


 「2文字だけ!とりあえず早口言葉は忘れてくれ!『すもも』という単語だけ言ったらいいから!」


 「すももう」


 「最後に『う』はいらんから!すもも!」


 「すももう」


 「『う』はいらんから!わかった、ゆっくり言ってみて。す・も・も」


 「す・も・もう」


 「もうじゃない!も!」


 「も・も・も」


 「違う違う!『すもも』の最後の『も』が『もう』じゃなくて『も』!す・も・も!」


 「す・も・も」


 「そうや。もう1回行くで。す・も・も」


 「す・も・も」


 「そうや!そのスピードでいいから早口言葉をもう1回言ってみ!」


 「すももももももももももも!!!」


 ごめん、あきらめるわ!安易に踏み込んだけど俺の手に負えることじゃなかったわ!


 「すももうも、もうもうもうも、もものうもうも!!!」


 医者の力がいる、もうこれ!トレーナーがいくら努力してもダメ、もう医学の力を借りないと無理!


 「すもももももももも、もーもももーもも、もーもももーもももものうちもーもも!!!」


 お前、何がどうなったらそんなことなんねん!ていうか、それ言うほうが難しいやろ!もとの早口言葉よりこっちのほうが難易度高いやろ!で、もものうちもーももって、もう終わってんのに最後足してもうてるやんけ!間違うんはええけど言葉足すんは違うやろ!


 結局、言えませんでした。3回言うなど夢のまた夢、1回目ですら1度も言えず、僕は頭から煙が出そうでしたから。


検証エピソード②『にしおかすみこ』
 これは、3年前の夏のお話です。


 僕の家には、小さな庭があります。この庭で、近所の人を集めてバーベキューをするのが恒例となっており、この年も20人近くが集まりました。


 メンバーには、僕の姪っ子である、愛子がいます。木下さんもおり、愛子は木下さんの隣に座って、楽しく食事をしていました。


 当時は、「にしおかすみこ」という芸人が大人気。SMの格好をした女芸人で、「にしおか~すみこだよ~!」と叫びます。愛子は彼女のことが大好きで、普段からそのモノマネをしていました。


 当時の愛子は4歳です。SMの意味など知らずに、「このブタ野郎!」と叫びます。その無知な子供っぽさがかわいらしく、近所の人は、愛子のモノマネが大好きなのです。


 「愛ちゃん、にしおかすみこをやってや!」


 しばらくして、参加者の1人が要求しました。


 周囲も「愛ちゃん、頼むわ!」と、拍手であおり始めます。愛子は了承し、機転をきかせた僕はムチの代わりに、布団のハタキを愛子に渡しました。


 「にしおか~すみこだよ~!」


 愛子がハタキを振りかざし、モノマネを始めました。にしおかすみこの決めゼリフである、「言うことを聞かないのはどこのどいつだい!?」を叫んで盛り上げます。


 ですが、木下さんは悪酔いしています。


 「愛ちゃん、そのハタキでおっちゃんのこと叩いて!」


 愛子にお願いして、急に服を脱ぎ始めました。パンツ1枚になり、愛子の前で四つんばいになりやがったのです。


 しかも、白のブリーフです。それもゴムが伸びきったスカスカのブリーフなので、はたから見たらアホ丸出しなんですね。


 それでも、メンバーにはお酒が入っています。止める者は誰ひとりとしておらず、愛子が「このブタ野郎!」と木下さんを叩くのを見て大爆笑なのです。


 「痛い!でも気持ちいい!」


 酔っ払った木下さんは、ますますテンションが上がり始めました。木下さんが「愛ちゃん、もっと叩いて!」と言えば、愛子が「気持ちいいのかい!?」と返していたのですが、このタイミングで「こんばんわ!」と言いながら新婚ホヤホヤの木下さんの息子の嫁がやってきたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!最悪やんけ、こんなもん!


 「もっと!愛ちゃん、もっと強く叩いて!」


 もっとやあるか、お前!で、よく見たら、ブリーフから軽く陰毛出てんねんけど!?露出した陰毛の先に嫁さん立ってんねんけど!?


 「お父さん……」


 そりゃそうやわ!ただでさえとんでもないところに嫁いだのに、こんなお父さん、死んでもイヤやわ!


 「愛ちゃん、おっちゃん、もうダメ!」


 俺ももうダメ!ていうかお前が原因で嫁さん、実家に帰るぞ!「義理のお父さんの頭がおかしい!」って母親に泣きつくぞ!


 このあと息子さんの嫁、すぐに帰りましたからね。腹ペコで来たはずなのに、1時間もしないうちに帰りましたから。


検証エピソード③『クリスマス会』
 これは、僕が小学校高学年のときのお話です。


 当時、テレビドラマの『とんぼ』が大流行しました。長渕剛主演のヤクザドラマで、過激な描写が多かったことからも、ご存知の方は多いはずです。


 このドラマでは、最終回で、長渕がヤクザに刺されます。街中で後ろから包丁で刺され、全身血まみれになりながら、ふらふらになって歩くのです。


 それはもう壮絶で、血を含んだ口でタバコをくわえます。「いてえよ!いてえよ!」と叫び、そのまま地面に倒れ込みます。


 「ハアハア、ウーーー、オリャアーーーーー!」


 こう奇声を上げながら、ヒザに手を当てて立ち上がります。ヒザはプルプルと震えており、そのあと野次馬に靴を投げつけるなど、前代未聞のシーンなのです。


 僕らは当時、それをマネしました。


 誰かがボールペンで刺してくると、「いてえよ!」と叫びます。「とんぼごっこ」と題して毎日のように遊んでいたのですが、木下さんもとんぼを見ており、空き地で遊ぶ僕らの輪に、毎回加わってきたのです。


 ただ、その演技が、すごすぎるのです。


 服が汚れるのも気にせず、その場でのたうち回ります。目をひんむき、「ハアハア、ウーーー、オリャアーーーーー!」の決めゼリフを吐いて立ち上がるなど、警察に通報されかねないほどのキチ○イっぷりなのです。


 僕らはドン引きです。一緒にいた女の子が泣き出したこともあるぐらいで、僕らは木下さんが来ると、遊ぶ場所を移動して、無視していました。


 その年のクリスマスのことです。


 近所の公民館で、クリスマス会が行われることになりました。


 この公民館には、ちょっとした舞台があります。毎年、希望者参加の催し物が行われ、僕はいつも遊んでいるメンバーを誘って、観に行くことにしました。


 舞台の前に座り、公民館の人が、お菓子を配ってくれました。


 僕はそれを食べ、ほどなくして今年の催し物が紹介されたパンフレットを手渡されたのですが、何気に見たパンフレットに、「ドラマ『とんぼ』の長渕剛」と書かれた演目を発見したのです。「紙芝居」と「サンタクロースの演劇

」に挟まれて、どぎついプログラムが用意されていたのです。


 まさか、あいつ……。まさか、あいつが……。


 僕はイヤな予感を漂わせながらも、最初の演目である紙芝居を見ました。


 小さな子供が手作りした紙芝居で、見ていて微笑ましいです。会場は拍手喝采で、子供が照れ笑いを浮かべて、舞台を去りました。


 ほどなくして、会場が暗くなりました。


 演目のタイトルがコールされ、舞台に照明がつきます。僕は心臓をバクバクさせながらも舞台を見たところ、案の定、あいつが現われたんですよ!


 「いてえよ!いてえよ!」


 いてえよやあるか、お前!聖夜に何してくれとんねん!


 「いってえーーーーー!」


 お前が痛いねん!ていうか、せめて刺されるシーンから始めろよ!刺される描写がないのに、いきなり痛がっても何のことかわからんやろ!


 木下さんは顔を紅潮させて、舞台をはいずり回っています。途中で舞台から頭をはみ出させるように倒れ、ピクリとも動きません。するとゆっくりと顔を上げ、顔面をプルプルさせながら1番前に座っている子供をにらみつけたんですよ!


 「ギャーーーーー!」


 勘弁してくれよ、おい!ドン引きやんけ、子供!


 またこの演目が、むちゃくちゃ長いんですよ!2分近くものたうち回り、しばらくして客席に自分の靴を投げ捨てたんですよ!


 警察呼ぶぞ、コラ!もしくはSATを呼んでこの場で射殺してもらうぞ!


 「俺はまだ死にたくねえよ!」


 死ぬべきやわ!断言するわ、今すぐにでも死ぬべきやわ!


 「ハアハア、ウーーー、オリャアーーーーー!!!」


 誰か帰ったぞ、おい!気持ち悪すぎて楽しいクリスマス会を放棄したぞ!


 とんぼの最終回の映像は、YOUTUBEに上がっています。本物の長渕の3倍すごい演技、と思ってもらって差し支えなく、僕は引きすぎて、当時のことが今でも頭から離れないですから。


検証エピソード④『中卒』
 これは、僕が中学1年生のときのお話です。


 僕には、2つ年上の姉がいます。当時は典型的な不良で、その年の秋口に、「高校には行かない!」と言いだしたのです。


 僕の両親は激怒しました。ほっぺたを殴ってまで言って聞かしたものの、姉は首を縦に振りません。


 その結果、僕の母親が体を壊しました。食事もノドを通らず、寝込む寸前にまでなってしまったのです。


 ある日のことです。


 僕の家に、木下さんがやってきました。


 台所では、僕の母親が泣いています。僕は母親に寄り添って励ましていたのですが、部外者には姉のことを口外しておらず、木下さんは事情を知りません。


 そこで、わらをもすがる思いで木下さんに事情を説明したところ、「よっしゃ!俺が言って聞かしたる!」と、珍しく頼もしいことを言います。


 「ふーちゃん(僕の母親)を泣かす奴は俺が許さん!俺が高校に行くように説得したる!」


 こう言って、いきりたったのです。


 なんだか、木下さんが頼もしく思えました。こんなに熱い木下さんを見るのは初めてだったので、「この人に託そう!」と、僕は腹を決めました。


 夕方の5時になりました。


 悪さを終えた姉が、家に帰ってきました。木下さんは引き締まった表情で姉に近づいて行ったのですが、「おい、ちょっとこっちにきょい」と、いきなり噛んだんですよ。


 頼むわ、おい!しっかりしてくれよ!


 「なんやの、あんた!?」


 「いいから、こっちにきょい!」


 また噛んだ!大丈夫か、こいつ!


 それでも、文句は言えません。木下さんは、姉の手をつかんで応接間に連れて行きました。「俺のかっこいい姿を見ろ!」とばかりにドアを少し開けているのは気になったものの、木下さんに任せることにしました。


 「今どき、高校に行かないと仕事なんてないぞ!」


 ドアの隙間から、木下さんが叫ぶ声が聞こえてきました。


 「勉強のよさはいずれわかる!」


 「高校に行っておかないと、いつか悔やむときが来るぞ!」


 柄にもなく、すばらしい言葉を連発しているのです。


 思わず、木下さんを見る目が変わったのですが、しばらくして、僕の姉が怒鳴り返すのが聞こえてきました。


 「あんた、中卒やろ。なんで中学しか出てない奴にそんなこと言われないとあかんのよ」


 たしかに、そうなのです。中卒の木下さんに、こんなことを言われる筋合いはありません。言う資格がなく、何の説得力もないのです。


 ですが、ここはどう考えても、「俺みたいになってほしくないから言ってるんや!」と言い返すはず。十中八九このパターンになるはずなので僕は安心していたのですが、「なんやと!?誰が中卒やねん!」と、本来の目的を忘れて中卒と言われたことにキレ始めたんですよ!「誰が中卒やねん!俺は頭が悪かったんと違うぞ!家が貧乏やったから行かへんかっただけや!」とブチギレているのです!


 どこでキレてんねん、お前!当初の目的を思い出せ!


 しかも「貧乏で何が悪いねん!貧乏でも俺は立派に生きてるんや!」と、姉はそのことに対して何も言ってないのに勝手に1人で怒ってるんですよ!


 勝手な解釈すんなよ、お前!なんでそんなことで怒られないとあかんねん!


 「お前に、新婚旅行やのに京都にしか行けんかった俺の気持ちがわかんのか!?」


 地元の隣やんけ、京都って!ちょっと待って、新婚旅行、京都なん!?金ないか知らんけどもうちょっとなんかあるやろ、お前!ハネムーンで八坂神社はないやろ、いくらなんでも!


 「お前みたいな奴は高校に行くな!」


 ええ加減にせいよ!それだけは言ったらあかんやろ!そうならないためにお前を派遣したのにお前が勧めてどないすんねん!


 その後、両親の説得のかいあって、僕の姉は高校に進学してくれることになりました。


 ですが、高校に行くと決めたときに姉が口にした言葉を、僕は今でも忘れません。


 「中卒やと木下さんみたいになりそうやから、高校に行くわ!」


 このように、アホだという事実自体が役に立ったのです……。


検証エピソード⑤『竹やんのリサイクルショップ』
 今年の夏、僕の近所に、リサイクルショップができました。


 経営者の名は、竹やん。


 60すぎの人で、僕の地元の商店街で服屋を経営しています。服屋の経営が行き詰まったことから、リサイクルショップとして再出発することになったのです。


 この竹やんも、頭がおかしいです。


 お酒に溺れ、家族にも逃げられました。1人で服屋を経営しており、その服屋も店舗はなく、路上で販売しています。ワゴンに、拾ってきたかのようなボロボロの衣服を入れて売り、ほそぼそと生活しているのです。


 竹やんが始めるリサイクルショップは、自分の家を店舗にしています。家の前にちょっとした小屋を組み立て、そこで中古品を売るのです。


 木下さんと竹やんは、大親友です。


 「竹やんがやるんやったら、俺も手伝わないとしゃあないな!」


 このように木下さんは意気揚々で、開店日から手伝うことになりました。


 とはいえ、いかんせん、アホ2人です。心配になった僕は、開店初日に店を見に行くことにしました。


 迎えた、当日。


 店の前に着くと、店は小さいながらも形にはなっています。


 ですが、中にお客さんがいる気配はなく、店の入り口には犬がいます。犬が吠えて、進入を阻止してくるのです。


 「すいません、この犬、どけてもらえませんかね?」


 僕は外から竹やんを呼びつけて犬をどけるように言ったのですが、「あかん!こいつは、わしの守護神や!こいつがおったから今のわしがあるんや!」とワケのわからないことを言って聞きません。僕は仕方なく、裏口から中に入れてもらいました。


 「いらっしゃいませ!」


 店に入ると、エプロンをつけた木下さんが僕を出迎えてくれました。


 自分の店以外で働くのが初めてなことから、木下さんは張り切っています。「お客さん、こちらの商品とかどうですかね?」と接客してくるなど、ご機嫌なのです。


 ですが、店内が異常に暑いのです。


 夏場なのでムンムンとしており、この小屋は、四方をビニールシートで覆っています。熱気がこもって暑く、扇風機こそ回しているものの、ほとんど意味がないのです。


 そして、それに輪をかけてひどいのが、品ぞろえです。


 もうね、むちゃくちゃなんですよ。フリマよりもむちゃくちゃで、むちゃくちゃな商品をむちゃくちゃに陳列しているのです。


 中古も中古、キレイほうのゴミぐらいの商品が、たくさんのワゴンにぶち込まれています。それぞれのワゴンに、「服コーナー」「ズボンコーナー」「ペンコーナー」「ハンガーコーナー」と書かれた貼り紙がしてあり、「ペンコーナー」に置いてあるペンなんて、キャップのないペンがごろごろしているのです。


 何考えとんねん、お前ら!誰が買うねん、こんなゴミ!


 「たけちゃん、このペンとかどう?」


 キャップないねんけど、これ!?ていうかこのペン、俺がお前に昔あげた奴やろ!このディズニーランドのボールペン、俺がおみやげにあげた奴やろって、高っ、このペン!キャップないのに120円って!


 店の中央には、「おすすめコーナー」と貼り紙がされたワゴンがあります。2人のオススメ品が入っており、木下さんのオススメ品である自転車がそのままぶち込まれているのです。


 ワゴンに載せんなよ、そんなもん!床に立たせとけよ!


 なかでも特筆すべきは、「そのたコーナー」です。


 はっきり言いますけどここ、濃い目のモザイクいりますよ。普通にゴミを並べており、都はるみのうちわ、氷を作るためのプラスチックケース、「のび太のドラビアンナイトとか」とシールがされたビデオテープは当たり前、スーパーの袋を1枚10円で販売しているのです。


 誰が買うねん、こんな袋!ていうか、そのスーパーの袋はスーパーの袋に入れて客に渡すんやろ!?商品を商品に入れるって客なめてんのか、お前ら!


 「このうがい薬買わへん?」


 薬売ってんの、ここ!?中古の薬とか聞いたことないねんけど!?


 「この商売繁盛のお守り買わへん?」


 それ売るか、普通!?商売人のお前はそれだけは売ったらあかんやろ!


 「めっちゃ効くで、このお守り!」


 効かへんからこんなことやってるんやろ!?そのお守りが効かへんかったから、こうやってリサイクルショップやってるんやろ!?


 「いくら、このお守り?」


 「800円」


 高っ!定価より高いやんけ、これ!あかん、アホなだけにインフレに歯止めがきかへん!値段高くしたら儲かると勘違いしてる!


 「このちくわ、100円で買わへん?」


 食いさしやんけ、これ!ちょっと待って、ひと口かじってんねんけど!?丁寧にラップしてあるけど、どう見てもひと口かじってんねんけど!?


 「お、おっちゃん、このちくわ、ひと口かじってない?」


 「だから100円にした」


 そういう問題じゃないねん!食いさしは値段下げたらいいとか通用せえへんねん、商いには!


 「買ってや?」


 コンサル入れろ、お前ら!借金してでも経営のコンサル雇え!子供のバザーよりも経理なってないねん、この店!


 とにかくひどく、商売もへったくれもないレベルなのです。


 それでも、2人はがんばっています。使えそうな万年筆が500円で売られていたので、僕はそれを買ってあげました。


 その日から、9日後のことです。


 僕の家に、木下さんが来ました。竹やんの店に付きっ切りだったため、僕の家に来るのは久し振りです。


 ですが、どうも元気がありません。竹やんの店が売り上げ不振らしく、竹やんが店を畳んだらしいのです。


 「9日間で、どれぐらい売れたん?」


 僕が訊いても返事をせず、しつこくたずねたところ、ようやく重い口を開きました。


 「500円」


 俺だけやんけ!俺やろ、その500円!


 「初日にしか売れんかった……」


 売れてはいないよ、それ!実質0や、お前らの店!そもそも入り口で犬が吠えるような店に誰が来んねん!


 僕、この店に30分しかいなかったですけど、言わなければならないことを200個以上見つけましたからね。しかもこの店に入ったことで体をやられ、家に帰ったあと、軽く吐きそうになりましたから。



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 ちなみに、先ほどの犬。


 竹やんの飼っている犬は、普段からろくなエサを与えられておらず、たまに新聞を食べます。